相続税計算のシミュレーション活用と注意点
- 公開日:
- 更新日:
相続税計算のシミュレーション活用と注意点
相続税計算のシミュレーションとは
相続税計算のシミュレーションは、法定相続分(法律で定められている法定相続人の遺産の取り分)をもとに、相続税を試算するツールです。引き継ぐ遺産の全体にかかる相続税を把握するとともに、各法定相続人(相続人)が負担する税額を知り節税対策を検討することを目的としています。
相続税の計算は、
①相続する全ての遺産から課税価格(固定資産評価額の中で、課税対象となるもの)の合計を算出する
②課税価格から基礎控除額を引く(課税遺産総額)
③課税遺産総額を法定相続人で分割する
④③に税額をかけて各人の納税額を算出する
というふうに、複雑な手順を踏みます。
相続税計算のシミュレーションは、法定相続人の数と財産額を入力するだけでおおよその相続税額を算出できますが、活用するにはツールの特徴を理解しどのように使うべきかを見極めることが大切です。
本記事では、相続税計算のシミュレーションの活用から注意点までわかりやすく説明します。
相続税計算シミュレーションの活用
相続税計算シミュレーションは、故人から財産を引き継いだ時に、どの程度の相続税がかかるのかをざっくりと把握するのに便利です。
具体的には、以下の活用方法が挙げられます。
・遺産分割内容を決める上での確認
・相続税の納税資金がどの程度必要になるかの確認
・相続の発生後に相続税申告が必要か否かの確認
それぞれ詳しく見てみましょう。
遺産分割内容を決める上での確認
法定相続人が複数おり、かつ遺言書がない場合における遺産分割は、法定相続人全員が集まり遺産分割協議で決めるとされています。できるだけ早く最適な遺産分割を提示したい時に役に立つのが、相続税計算シミュレーションです。
例えば、父が亡くなり母と子の合計4人で遺産を分割する必要があるとしましょう。手動で計算することも可能ですが、複数の算式に該当する数字を当てはめながら計算することは手間がかかりますし、計算ミスが発生するリスクもあります。その点シミュレーションは、必要な情報を入力するだけで、各法定相続人の相続税を瞬時に計算してくれます。
フィデリティ証券が公開している『相続税シミュレーション』を使って、父の遺産1億円を母と3人の子で分割する場合の相続税を計算してみましょう。
入力した遺産の内訳は、以下のとおりです。
・現金・預貯金2,000万円
・その他金融資産3,000万円
・不動産5,000万円
・ローン等の債務 0円
すると、以下の納税額が算出されました。
・母 0円
・子:1人あたり87万円
母の納税額が0円になっているのは、配偶者控除を加味しているためです(控除を利用しない場合の母の納税額は262万円)。このように、相続税計算シミュレーションは法定相続人にかかるおおよその相続税額を試算します。導き出された数字から、どのように遺産分割すべきかがより明確になるでしょう。
相続税の納税資金がどの程度必要かの確認
相続税は、相続する財産の金額に応じて高額になります。そのため、相続税が高額になることが予想される場合は、ある程度の資金(納税資金)を確保する必要が出てくるでしょう。
相続税計算シミュレーションを使えば、かかる相続税をざっくりと把握できますので、それを目安に計画を立てられます。上記の例でいいますと、子が納める相続税は、一人あたり87万円であると予想されました。この数字をもとにすれば、「相続税のために毎月◯万円ずつ貯金しよう」など、納税資金の計画的な準備が可能となるでしょう。
相続の発生後に相続税申告が必要か否かの確認
相続税には基礎控除が適用されるため、相続税が発生するのは課税価格の合計が基礎控除額を上回る時です。
基礎控除額は、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で算出されます。例えば、遺産を4人の法定相続人で分割する場合の基礎控除額は、5,400万円です。
3,000万円+(600万円×4人)=5,400万円
課税価格の合計が6,000万円の場合は、「6,000万円-5,400万円=600万円」となり、相続税がかかります。しかし、課税価格の合計が4,500万円の場合は、基礎控除額を下回るため相続税は発生しません。
相続税の申告には時間と手間がかかります。ざっくりとした相続税額を知るだけでも、申告の有無をすぐに確認でき、相続税について無駄な時間を費やす必要がなくなるでしょう。
相続税計算シミュレーションの注意点
相続計算シミュレーションは、必要な情報を入力するだけで瞬時に相続税を計算してくれます。ただし、ケースによってはシミュレーションで得られた数字と、実際に支払う相続税額との間に大きな差が出ることがあります。その理由の一つとして、加味できない要素が多く、個々のケースに対応しきれないということが挙げられます。相続税計算シミュレーションを使う際の注意点について、説明します。
財産評価が出来るわけではない
相続税を計算する際に必要なのは、引き継ぐ財産に対する評価です。財産評価は、評価対象となる財産の種類によってやり方が異なるため、相続税計算シミュレーションには不向きと言えるでしょう。特に土地や自社株評価、名義預金などのみなし相続財産の判断は複雑です。
①土地の評価
土地を評価する方法には「路線価方式」と「倍率方式」の2種類があり、それぞれ計算式が異なります。
・路線価方式:路線価×土地の面積
・倍率方式:固定資産税評価額×評価倍率
「路線価」とは、国税庁が定めている道路に面している宅地1㎡あたりの価額のことです。「評価倍率」は、路線価のない地域の土地を対象に、国税庁が設定している特定の倍率のことを指しています。
計算に必要な情報は一般の人でも収集できますが、できるだけ正確に土地を評価するには、単に計算式に当てはめるだけではなく、その土地の形状や立地を考慮する必要があります。例えば路線価方式を用いて土地を計算する際、奥行きが極端に長い土地の評価は、上記の式に奥行価格補正率(奥行きが長く、それによって利便性が下がると考えられる土地に適用される補正)をかけて計算します。
◯設例:
・路線価:20万円
・奥行き:30メートル
・土地の面積:1,000㎡
上記の土地を評価する場合の計算式は以下のとおりです。
20万円×1,000㎡×0.95(奥行価格補正率)※=1億9,000万円
※国税庁の奥行価格補正率を参照。
この奥行価格補正率は、地区区分でいう「普通住宅地区」に所在する土地に適用されるものです。他の地区区分にある場合は、異なる奥行価格補正率が設定されています。例えば、「繁華街地区」にある土地の場合の奥行価格補正率は0.98と設定されていますので、同じ形状の土地でも評価額は異なります。
20万円×1,000㎡×0.98=1億9,600万円
相続税計算シミュレーションでは、土地評価を加味して計算できません。土地評価は高額になる傾向があるため、シミュレーションの数字との格差が大きくなりがちです。
②自社株評価
自社株評価とは簡単に言うと、自社で保有している非上場株式の価額を計算することです。自社株を相続すると、相続税がかかりますが、自社株評価は判断方法が複雑なうえ高額になりがちです。相続税計算シミュレーションでは税額を把握するのに限界があるでしょう。
自社株評価の方法には、「原価的評価方式」と「特例的評価方式」の2種類があり、原価的評価方式はさらに「類似業種比準価額方式」「純資産価額方式」の2種類に分けられます。「類似業種比準価額方式」と「純資産価額方式」を併用して評価することもありますが、それを含めると4種類の評価方式の中から適切な方法を選択しなくてはなりません。
適切な評価方法を選択するには、自社の状況を適切に判断するプロセスを踏みます。株主を判定することから始めて従業員と総資産価格をベースに会社の規模を評価し、さらに特定の資産バランスや業態から特定会社に該当するかどうかを判定します。これらのプロセスをへて評価方法を選ぶことになりますが、細かな要素を検討する必要があるため、相続税シミュレーションを使って評価額を算出することは難しいと言わざるを得ません。
③みなし相続財産の評価
みなし相続財産とは、亡くなったことによって生じる財産のことを指します。具体例としては、
・死亡保険金:被相続人が死亡したことによって受け取ることのできる保険金
・死亡退職金:被相続人が死亡したことによって勤め先から支払われる退職金
の2種類が挙げられます。
みなし相続財産には非課税枠があり、それを上回った分に対して相続税がかかります。計算シミュレーションでは非課税枠は設定されていませんので、正確に評価するには手動で行う必要があるでしょう。
各種税制特例は加味されない
相続税計算シミュレーションは、各種税制特例を加味せずに相続税を計算します。相続に関する各種税制特例にはいくつか種類があり、特別な計算式を用いて控除額等を算出します。主な税制特例は以下のとおりです。
税制特例の種類
概要
計算式
小規模宅地の特例
故人が使用していた宅地に対して行われる控除
宅地の評価額×限度面積×減額割合
障害者控除
「一般障害者」または「特別障害者」に認定されている相続人に対する控除
・一般障害者:85歳-相続時の年齢×10万円
・特別障害者:85歳-相続時の年齢×20万円
未成年者の税額控除
未成年の相続人に対して、相続してから18歳に達するまでを想定し一定額を控除する制度
18歳-相続時の年齢×10万円
贈与税額控除
相続税との二重課税を避けるために、相続税から贈与税を控除できる制度
贈与を受けた年の贈与税額×相続税に加算した贈与財産の価額/贈与を受けた年の贈与財産の総額
相次相続控除
10年間に複数の相続が発生した場合、2次相続の時に一定額が差し引かれる制度
国税庁の『相次相続控除』を参照
各種税制特例は、ケースによっては相続税の大きな減額につながります。
利用を検討しているのなら、相続税計算シミュレーションではなく個々の事情に合わせて計算するのが無難でしょう。
シミュレーションをそのまま利用するのは危険
相続計算シミュレーションを利用することによって負担する相続税の目安を把握できるうえ、複雑な計算の手間を省くことが期待できます。
ただし、場合によっては実際の税額と大幅にずれることがある点には留意しましょう。特に複数の財産を相続したり、引き継ぐ遺産額が高額になったりする場合は、シミュレーションで試算した数字をうのみにするのは危険です。
相続税対策や納税資金準備等事前準備の前提としては要注意
相続税の納税は、期限までに現金で納めることが原則です。高額の相続税を支払うことが予想される場合は、預貯金の他に株式などを換金し納税資金として確保する必要があるでしょう。
確保する納税資金の目安を把握するために、相続税計算シミュレーションを利用する人もいますが、それだけでは不十分と考えられます。
これまで見てきたとおり、相続税計算シミュレーションは、
・小規模宅地等の各種税制特例など特別な計算を必要とする試算には対応していない
・死亡退職金や死亡保険金などの非課税金額の試算には対応していない
・障害者控除や未成年控除など各種控除には対応していない
など、機能の面で制限されています。
例えば、「配偶者控除を利用した場合の二次相続にかかる相続税はいくらくらいになるのだろうか」「小規模宅地等の特例を使うことが節税につながるのだろうか」というふうに、個々の事情に合わせたシミュレーションをする際は、相続税計算シミュレーションでは試算が難しいでしょう。
相続税対策や納税資金準備を前提としている場合は、自分で試算をするか、節税対策の相談も含めて専門家に試算してもらうことをおすすめします。
相続税申告には使えない
相続税申告は、相続税を納める際に必要な手続きです。決められた用紙に必要事項を記入していきますが、その内容はかなり細かくかつ正確さが求められます。国税庁は相続税申告書の記載例を公開していますが、課税価格の計算から申告納税額まで事細かに記入する必要があることが分かります。
【国税庁が公開している相続税の申告書の記載例】
・出典:『相続税の申告書の記載例』
もし、申告書に記入漏れや計算ミスが認められた場合は、税務調査(税務署員による申告の正確性に対する調査)が実施される可能性があります。そうすると、税務署員に聞かれた質問には全て答える必要がありますし、ミスによって追徴課税が発生することも考えられます。特に、一般人が計算して作成したとなれば、正確性において疑問を持たれる可能性が高まります。こうした理由から、相続税申告には相続計算シミュレーションを避けるのが無難であると言えるのです。
相続税や相続手続きのご相談は信託相続先生へ
相続税計算シミュレーションの特徴やメリット、注意点について解説しました。
引き継ぐ遺産に対して、各法定相続人に課される相続税を簡単に把握できる相続税計算シミュレーションは、遺産分割や相続税発生の有無などの確認に役立つでしょう。
一方で、各種税制の特例や控除は加味されていないなど細かな相続税の計算には対応していないため、具体的な節税対策の準備や相続申告には向いていません。
相続税の申告には正確性が求められるうえ期限があります。スムーズに手続きを済ませるには、税理士のアドバイスを受けながら作業を進めることがベストです。
私たち、信託相続先生では、相続税に強い税理士による無料相談を実施中です。
お困りの場合は、お気軽にお問い合わせくださいませ。