相続税の早見表の見方と注意点

相続税の早見表の見方と注意点

相続税の早見表とは

相続税の早見表とは、遺産総額の合計額に対するおおよその相続税額をまとめた一覧表のことです。

相続税の早見表(相続人が配偶者と子の場合)

遺産総額
(基礎控除前)
配偶者+子1人
配偶者+子2人
配偶者+子3人
配偶者+子4人

5,000万円
40万円
10万円
0円
0円

6,000万円
90万円
60万円
30万円
0円

7,000万円
160万円
113万円
80万円
50万円

8,000万円
235万円
175万円
138万円
100万円

9,000万円
310万円
240万円
200万円
163万円

1億円
385万円
315万円
262万円
225万円

2億円
1,670万円
1,350万円
1,217万円
1,125万円

上記は、その一部です。詳細については、下記のサイトをご参考ください。
・参照:『相続税を早見表で概算チェック!基礎知識と計算方法も解説』(りそなグループ)

相続税の早見表は、法定相続分(民法で定められた、法定相続人が遺産を相続する割合)で相続したことを前提に作成されています。法定相続人の構成と引き継ぐ遺産(基礎控除前)の金額から、どの程度の相続税が発生するかを容易に把握できることが、早見表のメリットと言えるでしょう。

相続税の早見表を用いる際の注意点は、ケースによって実際の相続税との間に大きな誤差が生じること。早見表はあくまでも相続税の目安を知るためのもので、実際に納める税額とは異なる場合があることを忘れないようにしましょう。

本記事では、特に誤差が生じやすい相続のケース(土地の評価や各種税制特例の計算が必要となるケースなど)について分かりやすく解説します。

早見表では土地等財産評価による相続税の誤差が生じる

土地は、相続財産の一つです。相続するにはその土地を評価し価額を出す必要がありますが、相続税の早見表は土地の評価を考慮してないうえ、その計算も単純化しています。

:土地評価は誤算しやすい

土地を評価する方法には、以下2種類の方法があります。
・路線価方式:路線価(国税庁が定めている土地の価格)のある地域における土地の評価方法。「路線価×土地の面積」で評価額を算出する
・倍率方式:路線価のない地域における土地の評価方法。「固定資産税評価額×評価倍率」で評価額を算出する

上記の算式を使った計算自体は、それほど難しくはありません。計算する際に必要となる情報は、一般の人でも手に入れやすいものです。ただし、土地はその形状や立地によって減額される要素を持っています。そのため、その土地がどのような減額要素を持っていて、どの程度減額すべきかの判断が必要となってきますが、評価の度合いは専門家によっても見解が異なるほど複雑です。

:路線価の補正計算

路線価方式での土地評価では、減額要素は各種補正率をかけて計算します。
「路線価×土地の面積×各種補正率(複数可)」

主な路線価格補正には、以下のものがあります。
・奥行価格補正:通常よりも奥行きの長い土地に対して適用される補正
・規模格差補正:極端に広い土地に対して適用される補正
・間口狭小補正:間口部分が狭い土地に対して適用される補正

例えば、路線価が40万円で面積が150㎡の土地を相続したとしましょう。
普通に計算すると、土地の評価額は6,000万円です。
40万円×150㎡=6,000万円

けれども、その土地は奥行きが25mと極端に長いため補正する必要があります。
宅地用の奥行価格補正率※は0.97ですので、先ほどの算式に、奥行価格補正率をかけます。
※国税庁の奥行価格補正率を参照。
40万円×150㎡×0.97=5,820万円

補正率を適用することによって、土地の評価額が低くなりました。

:自社株評価による誤算

自社株評価とは、自社の非上場株式を評価することです。市場に出回っていない株式には取引相場がないため、評価通達によって定められている方法で評価する必要があります。自社株を評価するプロセスは複雑で、注意しないと、税理士であっても間違える可能性があるほどです。

自社株の評価は、以下のステップで進められます。
①株主を判定する(誰が株主か)
②会社規模を評価する(規模の会社はどの程度か)
③特定会社※の当否を見極める(特定会社に該当するか)
④評価方法の選択(自社に適した評価方法はどれか)
※特定会社:保有している特定の資産のバランスが高すぎたり、一般的な会社とは業態が異なったりする会社のこと

自社株評価の方法には、大きく分けて「配当還元方式」と「原価的評価方式」の2種類があります。厳密に言うと、後者は「純資産価額方式」「類似業種比準価額方式」「純資産価額方式と類似業種比準価額方式の併用」の総称です。各算式を使った計算はかなり専門的な内容となるのでここでは説明を省きますが、実際の計算は複雑かつ用いる評価方法によって評価額が異なります。そもそも自社株の評価に至るプロセスが複雑ですので、自社株を正確に評価するには、専門知識が求められます。ケース・バイ・ケースで考慮する点の多い自社株評価に相続税の早見表を使うと、誤算するおそれがあります。

早見表では小規模宅地等各種税制特例による相続税の誤差

相続税の早見表は相続に関する各種税制特例や控除を考慮していないため、実際に納める相続税との間に誤差が生じることがあります。相続に関する主な税制特例または控除として、以下のものが挙げられます。
・小規模宅地等の特例
・農地等の納税猶予の特例
・配偶者控除
・障害者控除
・相次相続控除

これらの制度を適用すると税金の大幅な減額が生じ、早見表が示す相続税額との間に大きな誤差が生まれやすいのです。

小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例は、故人が使用していた宅地の用途や広さに応じて相続税を減額する制度です。
この特例が適用される宅地は以下のように区分されています。
・居住用
・事業用(貸付事業用・特定事業用)

各利用区分には「要件」「限度面積」「減額割合」が設定されていて、これらをもとに計算します。

・出典:『No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)』(国税庁)

具体的に小規模宅地等の特例はどのように計算されるのでしょうか。設例をもとに説明しましょう。
①設例1
・対象となる宅地:被相続人の居住用宅地
・宅地の面積:300㎡
・宅地の評価額:6,000万円

対象となる宅地は「特定居住用宅地等」に該当します。限度面積以下のため、宅地面積の全てが減額割合の対象となります。
控除額:6,000万円×(300㎡/300㎡×80%)=4,800万円
相続税評価額:6,000万円-4,800万円=1,200万円

②設例2
・対象となる宅地:被相続人の同族会社用宅地
・宅地の面積:500㎡
・宅地の評価額:9,000万円

対象となる宅地は、「特定同族会社事業用宅地等」に該当します。限度面積を超えているため、以下のように控除額と相続税評価額を求めます。
控除額:9,000万円×(400㎡/500㎡×80%)=5,760万円
相続税評価額:9,000万円-5,760万円=3,240万円

農地等の納税猶予の特例

農地等の納税猶予の特例とは、農地などの広大な土地を相続した際に、相続税または贈与税を猶予する制度のことです。この特例を利用できるのは、原則として生涯農業を目的に利用し続ける場合のみです。農地以外に使った場合は納税猶予の適用が終わり、税金を一括で納める必要が出てきます。

納税猶予税の算出には、特定の計算式が用いられます。
「普通に計算した場合の相続税額」-「農業投資価格による相続税額」

設例をもとに、特例による納税猶予額を計算してみましょう。

◯設例
・相続人:1人
・相続する財産:農地
・農地のある場所:千葉県
・農地面積:1200a
・地目:田
・土地の評価額(通常):2億円
・千葉県の農業投資価格:74万円/10a※
※参照:『農業投資価格の金額表』(国税庁)

普通に計算した場合の相続税額は、以下のように求められます。
①課税総遺産総額の計算:2億円-3,600万円(基礎控除額)=1億6,400万円
②相続税額の計算:1億6,400万円×40%-1,700万円(控除額)=4,860万円
※参照:『相続税の税率』(国税庁)

農業投資価格による相続税額は、以下のように求められます。
①相続する農地の評価額:74万円×1200a/10a=8,880万円
②課税遺産総額の計算:8,880万円-3,600万円(基礎控除額)=5,280万円
②相続税額の計算:5,280万円×30%-700万円(控除額)=884万円

最後に、納税猶予税の算式を用いて税額を算出します。
4,860万円-884万円=3,976万円

配偶者控除

配偶者が相続する遺産に対して相続税を免除する制度のことを、配偶者控除といいます。この制度により、以下のいずれか大きい方に該当する場合は配偶者の相続税がゼロになります。
・1億6,000万円
・配偶者の法定相続分

相続税の早見表に表示されている相続税額は、配偶者控除後の数字です。もし、配偶者控除を適用しないのであれば、実際の税額との間に誤差が出ます。例えば、課税価格の合計額が1億円の財産を配偶者と2人の子で分割する場合の相続税合計額を早見表で調べると、315万円。これは、配偶者控除を適用した後の数字ですので、控除を利用しなかった場合の相続税額とは異なります。

また、早見表は配偶者の法定相続分(課税価格の1/2)を前提としているため、それ以外の割合で分割した場合は、相続税額も必然的に変わります。
例えば、父が8,000万円の財産を遺して亡くなり、配偶者と子の2人が遺産を引き継ぐとしましょう。法定相続人全員が、無職の母に父の財産を全て譲ることに合意した場合、8,000万円が配偶者のものとなります。配偶者控除を使えば、相続税はゼロです。極端な例かもしれませんが、こうした個々のケースに早見表は対応していません。

障害者控除

障害者控除とは、障害を持つ法定相続人に対する控除制度のことです。
控除を受けるには、以下の要件を満たす必要があります。
・相続した時の年齢が85歳未満の相続人
・「一般障害者」または「特別障害者」に該当する相続人

障害者控除額は、以下の計算式で求められます。
85歳-相続時の年齢×10万円(特別障害者の場合は20万円)

例えば、一般障害者の法定相続人が45歳の時に遺産を相続する場合の控除額は、400万円です。
85歳-45歳×10万円=400万円

この法定相続人が支払う相続税額が400万円であった場合、控除額を差し引くと相続税は0円となります。早見表による相続税は、法定相続人が障害者であるかどうかを考慮していませんので、当然ながら実際の相続税との間に誤差が生じます。

相次相続控除

相次相続控除とは、10年間に相続が複数発生した際に適用される控除制度のことです。例えば、父が亡くなってから3年後に母が亡くなった場合、父の相続(1次相続)で支払った相続税の一部を、母の相続(2次相続)の時に控除できます。

相次相続控除の計算式は以下のとおり。
A×C÷(B-A)×D÷C×(10-E)÷10

A:1次相続の相続税額
B:1次相続の純資産価格
C:2次相続の純資産総額
D:2次相続の純資産価格
E:1次相続から2次相続までの期間

設例をもとに相次相続控除額を計算してみましょう。

◯設例
【1次相続】
・被相続人:祖母
・相続人:父
・父が取得した財産の資産価格:5,000万円
・父の相続税額:160万円

【2次相続】
・被相続人:父
・相続人:子(A男)
・A男が取得した財産の資産価格:4,000万円
・1次相続から2次相続までの期間:5年

A:160万円
B:5,000万円
C:4,000万円
D:4,000万円
E:5年

A×C÷(B-A)×D÷C×(10-E)÷10
160万円×4,000万円÷(5,000万円-160万円)×4,000万円÷4,000万円×(10-5)÷10=661,157円(小数点以下切り捨て)

相次相続控除額の計算は、1次相続で支払った納税額や1次相続から2次相続の期間など、個人的に異なる要素を用いるため、早見表の数字とは差が出ます。

相続対策や納税資金のための試算はある程度の正確性が必要

将来的に多額の遺産を引き継ぐ予定がある場合は、節税や納税資金の確保について検討する必要があるでしょう。例えば、10億円の遺産を相続することが将来想定される場合、配偶者と3人の子供に課される相続税額の合計は、ざっと計算しただけでも3,600万円弱です。手元に十分なお金があれば特に準備をしなくても納税できるかもしれませんが、相続税は原則として現金で納める必要があります。現金が不足すると予想される場合は、相続する日に備えてまとまったお金を準備しなくてはならないでしょう。

相続内容がシンプルで、相続税の早見表によっておおよその税額を把握できるというのなら問題ありませんが、複雑な要素が絡む場合はできるだけ正確な試算が求められます。適当に計算してしまうと、実際に支払うべき税額と早見表の税額との間に大きな誤差が出て、「現金が足りなくて期限までに税金を支払えない」ということにもなりかねません。

できるだけ正確に相続税を計算するには、
・相続する財産(マイナスの財産も含む)を正確に評価する
・適用する特例や控除を明確にする
・法定相続人の数を明らかにする
・各種控除や特例などの計算方法を覚える
ことが大切です。
そのうえでシミュレーションをして、どのような相続対策が適切かを見極めましょう。

まとめ

相続税の早見表について解説しました。早見表は、一目でおおよその相続税額を把握できる便利なツールです。ただし、個々のケースに合わせた具体的な税額を把握したい時には向いていません。特に、各種税制や控除を考慮する場合は、その誤差も大きくなりがちです。

相続税の計算に必要な情報は一般の人でも収集しやすく、ある程度自力でできるでしょう。ただし、財産の評価方法や特例の減額計算は、種類ごとに異なります。実際の相続税額に近づけるには、専門的な知識と経験、そして作業にかけられるだけの十分な時間が不可欠です。加えて節税対策を念頭に置いた相続税の計算には正確性が求められることを、忘れないようにしましょう。自力で限界を感じる、または最善の相続税対策を知りたいのなら、迷わず専門家に相談することが賢明です。

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