相続税申告は自分でできる?手続きの流れと専門家に依頼するメリット
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親の相続が発生したとき、「相続税申告は自分でできるのだろうか?」と悩む方も多いでしょう。特に高齢の親を持つ50代の子世代にとって、相続税の申告手続きを自分で進めるべきか、あるいは税理士など専門家に任せるべきかは大きな判断ポイントです。本記事では、相続税申告を自分で行う場合の基本的な手続きの流れから、自力で申告する際の注意点、そして税理士など専門家に依頼するメリットや依頼時の費用相場・専門家の選び方まで、中立的な立場でわかりやすく解説します。相続税申告を自分で行うか専門家に任せるか迷っている方は、ぜひ参考にしてみてください。
自分で相続税申告を行う際の基本手続き
相続税の申告手続きは大きく分けて以下の流れで進めます。相続発生から申告・納税までは被相続人(亡くなった方)の死亡から10か月以内という期限があるため、計画的に手続きを進めましょう。
財産目録の作成(資産・負債の洗い出し)
まずは被相続人が残した財産の全体像を把握することが出発点です。プラスの財産とマイナスの財産をすべて洗い出し、「財産目録(遺産目録)」を作成します。プラスの財産には現金・預貯金、株式などの有価証券、不動産(土地・建物)、貴金属・骨董品、自動車、さらには死亡保険金や死亡退職金といった相続で受け取る金銭も含まれます。一方、マイナスの財産としては被相続人に借入金などの債務があればその残高、未払いの税金や医療費、そして葬儀費用などもリストアップします。これらをもれなくリスト化することで、相続財産の全体額を把握でき、後の相続税額の試算に役立ちます。
なお、生前に被相続人から相続人へ3年以内に贈与された財産がある場合や、生前贈与で相続時精算課税を適用して受け取った財産がある場合は、それらも相続財産に加算される点に注意が必要です。また、被相続人が残した遺言書の有無もこのタイミングで確認しておきましょう。遺言書があれば記載内容に沿って分割や遺産計上を検討することになります。
各財産の評価額算出と相続税額の試算
財産目録ができたら、次に各資産の評価額(相続税評価額)を算出します。現預金は残高がそのまま評価額になりますが、不動産などは相続税独自の評価方法(例えば路線価や固定資産税評価額にもとづく計算)を使って評価します。株式や投資信託なども所定の方法で評価し、すべてのプラスの財産評価額の合計からマイナスの財産を差し引いた正味の遺産額を算出しましょう。
正味の遺産額が算出できたら、相続税の基礎控除額と比較します。基礎控除額とは「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算される非課税枠のことで、遺産額がこの枠内で収まる場合には相続税はかかりません。遺産総額が基礎控除を超える場合に相続税の申告・納税が必要ですので、自分で申告する場合でもまず基礎控除額を算出してみましょう。例えば法定相続人が配偶者と子1人の合計2人なら基礎控除額は4,200万円になります。この額を超える遺産がある場合には相続税申告が必要です。
課税対象となる場合には、続いて相続税額の試算を行います。相続税の税率は累進課税(課税額が大きいほど税率も高くなる方式)で10%から最大55%まで段階的に定められていますが、実際の計算は法定相続分に応じて各人の税額を出す方式でやや複雑です。自分で正確に計算するのは難しいため、国税庁のホームページにある「相続税申告書作成コーナー」や市販の相続税額シミュレーションなどを活用し、おおよその税額を算出すると良いでしょう。また、配偶者がいる場合の配偶者控除(配偶者は法定相続分または1億6,000万円まで非課税)や、未成年者控除・障害者控除といった各種税額控除が適用できるかも確認します。これらの特例を反映して最終的な納税額を試算しておけば、後の申告書作成がスムーズになります。
相続税申告書の作成と税務署への提出方法
評価額の算出と税額試算まで完了したら、いよいよ相続税申告書の作成に入ります。相続税申告書(第1表ほか各種附表)は国税庁のウェブサイトからダウンロードするか、税務署で入手できます。まず申告書の様式一式を準備し、手引きに従って必要事項を記入していきます。申告書には相続人全員の氏名・住所、各人が取得した財産の内容と価額、適用する特例の有無、試算した税額などを記載します。加えて、申告書には多くの添付書類が必要です。典型的な添付書類として以下のようなものがあります。
・被相続人の戸籍関係書類一式(出生から死亡までの戸籍謄本や除籍謄本など)および法定相続人全員の戸籍謄本
・遺産の内容を証明する書類(預貯金残高証明書、証券残高報告書、不動産の登記事項証明書・固定資産評価証明書、生命保険金の支払通知書 等)
・債務や葬儀費用を証明する書類(借入金残高証明書、葬儀社の領収書 等)
・遺産分割協議書(相続人全員で遺産の分け方を決めた合意書。作成できていれば提出)
これら必要書類をすべて揃え、相続税申告書に添付して提出します。提出先は被相続人の死亡時の住所地を管轄する税務署です。提出方法は税務署窓口への持参または郵送で行えます(近年では国税庁の電子システムe-Taxでも提出可能です)。相続税申告書の提出期限は繰り返しになりますが相続開始(死亡日の翌日)から10か月以内です。この期限までに申告書を提出し、なおかつ算出した相続税額を納税しなければなりません。納税は現金納付が基本ですが、現金一括での納付が難しい場合には延納(分割払い)や物納(不動産などで納付)といった制度もあります。自分で申告する場合、期限内に申告書の提出と税金の納付を完了することがゴールです。
自分で申告する場合の注意点
相続税の申告を自力で行うことは可能ですが、専門知識が必要な場面も多く注意が必要です。ここでは、自分で申告手続きを進める際に押さえておきたいポイントやリスクについて解説します。
複雑な財産評価や特例適用漏れによる申告誤りのリスク
相続税には、不動産評価や各種特例適用など専門的で複雑なルールが存在します。例えば、不動産の評価額算出には路線価図を読み解き、土地の形状や利用状況に応じた補正計算を行う必要があります。また、小規模宅地等の特例(一定の要件を満たす宅地の評価減)や、配偶者控除、相続税の障害者控除・未成年者控除など、多くの減税措置(特例・控除)が用意されています。慣れない人が独学で手続きをすると、本来適用できる特例を見落としてしまったり、逆に適用条件を満たさない特例を誤って盛り込んでしまったりするケースが考えられます。その結果、申告ミスによって「税金を払い過ぎてしまう」あるいは「本来より税額が少ない誤った申告をしてしまう」リスクが生じます。払い過ぎた税金は後から更正の請求で取り戻せる可能性がありますが、見落としに自分で気づくのは容易ではありません。一方、申告漏れや間違いがあれば後日税務署から修正申告や追加納税を求められることもあります。複雑な財産評価や税制の知識に自信がない場合は、慎重に手続きを進めるか専門家への相談も検討しましょう。
必要書類の収集や書類不備による手続き遅延の注意
相続税申告では前述のとおり非常に多くの書類を準備する必要があります。戸籍の収集一つとっても、被相続人の出生から死亡までの全戸籍を集めるには本籍地の役所ごとに請求が必要で手間がかかります。また、不動産が複数の市区町村にまたがっていればそれぞれで固定資産評価証明書を取得しなければなりません。必要書類の収集には時間と労力がかかるため、スケジュールに余裕をもって進めることが大切です。書類の不備や不足があると、税務署から補正を求められたり、最悪の場合申告期限に間に合わなくなるリスクもあります。期限に遅れてしまうと無申告加算税や延滞税といったペナルティが課される可能性もあるため注意が必要です。
また、申告書自体の記入ミスにも注意しましょう。相続税申告書は様式が多岐にわたり記入項目も細かいため、不慣れな方が記載ミスをしてしまうことは珍しくありません。例えば金額の計算誤りはもちろん、相続人の続柄や住所の記載漏れ、添付書類の貼付漏れなど形式的なミスも起こりがちです。こうした不備があると後日修正対応に追われることになり、申告手続きがスムーズに完了しません。提出前に書類一式をしっかりチェックし、不安があれば税務署の窓口で事前に相談するといった慎重さも求められます。
相続人間での情報共有不足が招くトラブル防止
相続税の申告手続きを円滑に進めるためには、相続人同士の協力と情報共有も重要です。たとえば長男が主導して申告書を作成するケースでも、他の相続人が知らない財産があれば情報漏れにつながります。また、遺産分割の内容によって適用できる特例(小規模宅地の特例など)が変わることもあるため、遺産分割協議は申告前によく話し合ってまとめておく必要があります。相続人間で十分なコミュニケーションが取れていないと、「あるはずの財産が申告されていないのではないか」と他の相続人が疑念を抱いたり、申告後に遺産分割でもめたりするトラブルにつながりかねません。
こうした事態を防ぐためにも、誰がどの財産を相続するのか、申告書にどう反映するのかを相続人全員で共有しておくことが大切です。申告書の控えや財産目録のコピーを相続人に配る、重要事項はメールや書面で確認を取る、といった工夫も良いでしょう。自分で申告を進める場合でも、決して独りよがりにならず相続人全員の合意と理解を得ながら手続きを進めることで、後々のトラブル防止につながります。
相続税申告を税理士に依頼するメリット
相続税申告を専門家(税理士など)に依頼することで得られるメリットは多岐にわたります。ここでは主なメリットを解説します。自力申告と比較してどんな利点があるのか確認し、自分たちの状況に照らして検討してみましょう。
適切な節税アドバイスと控除漏れ防止による税額軽減
相続税に詳しい税理士に依頼すれば、専門知識にもとづいた節税アドバイスを受けることができます。相続税額を計算する方法は一通りではなく、遺産の分け方次第で税額が変わるケースもあります。経験豊富な税理士であれば、例えば「配偶者控除をどこまで使うか」「二次相続(将来もう一方の親が亡くなったときの相続)も見据えた財産配分」など、長期的に見て最も税負担が少なくなるシミュレーションを提案してくれます。また、小規模宅地等の特例や各種控除の適用条件を満たすためのアドバイスも期待できます。素人では気付きにくい控除漏れや評価減の見落としを防ぎ、法律の範囲内で最大限に税額を軽減できる点は専門家に依頼する大きなメリットです。
さらに、財産評価においても税理士のノウハウが活きます。不動産評価などは専門家の手にかかると適正かつ有利な評価額を導き出せる場合があります。評価減の余地がある土地(不整形地や崖地、貸宅地など)の減額要素を見逃さず反映してくれるため、結果的に相続税の節税につながります。適切な節税対策と正確な申告によって、「プロに依頼したらかえって支払う税金が少なくなった」というケースも少なくありません。
面倒な手続きや書類作成を任せられ精神的負担を軽減
相続税申告の一連の作業を税理士に代行してもらえることは、大きな安心材料です。財産目録の作成から評価額の計算、申告書類一式の作成、添付書類のチェックまで、煩雑な手続きを専門家に任せることで、相続人自身の手間と時間を大幅に節約できます。特にお仕事を持っていたり遠方に住んでいたりする相続人にとって、平日に役所や税務署へ出向いて書類を集めたり申告準備をするのは大変です。プロに依頼すれば、必要な書類の案内や取得代行も含めて進めてくれるため、スムーズに手続きが進行します。
また、精神的な負担軽減という点も見逃せません。親を亡くした直後は何かと心労が大きい中で、複雑な税金の計算や書類作成を自力で行うのは精神的なストレスになります。税理士に依頼すれば、相続人は専門家のサポートを受けながら要所の判断や必要情報の提供を行うだけで済みます。初めて相続を経験する方でも、プロが隣にいて導いてくれることで安心感が得られるでしょう。こうした心の余裕は、他の大事な家族のケアや葬後の諸手続きに集中するためにも大切です。
万一税務調査が来ても専門家が対応し安心
相続税の申告後、税務署が内容を確認して税務調査(おもに税務署からの問い合わせや実地調査)が行われるケースがあります。相続税申告は一定の割合で税務調査の対象になると言われており、特に申告内容に不明点がある場合や大きな財産が動いた場合などには、申告から1~2年後を目途に調査が入ることがあります。こうした税務調査に対しても、専門家に依頼していれば税理士が窓口となって対応してくれます。税理士は税務調査の対応にも慣れており、指摘事項への適切な反論や修正申告手続きも含めて対処してくれるため、依頼者本人が税務署と直接やりとりする負担が軽減されます。
また、経験豊富な税理士が申告を行った場合、そもそも申告内容が整然としているため税務署から疑問を持たれにくいという利点もあります。専門家の目でチェックされた申告書はミスや漏れが少なく、結果的に税務調査に選ばれるリスクも低減できるでしょう(絶対ではありませんが安心材料になります)。万一調査が入った場合でも「プロに任せている」という安心感がありますし、何か問題が見つかった際も速やかに専門家と対処策を講じることができます。相続税のように後から指摘を受ける可能性がある手続きでは、プロのサポートがあることで精神的な安心を得られるのも大きなメリットです。
専門家に依頼する際の費用と選び方
専門家に相続税申告を依頼する場合の費用相場や、実際に依頼する税理士を選ぶ際のポイントについて説明します。費用面と依頼先の見極め方を理解し、納得できる専門家選びに役立ててください。
相続税申告を税理士へ依頼する場合の費用相場
相続税申告を税理士にお願いするときに気になるのが費用(報酬)です。一般的に、相続税申告業務の税理士報酬は「遺産総額の0.5~1%程度」が相場と言われています。例えば遺産総額が1億円あるケースなら、税理士報酬は約50万円~100万円ほど、5,000万円なら25万円~50万円ほどが目安です。ただし、遺産に不動産が多い場合や相続人が多数で手続きが複雑な場合、あるいは税務調査対応まで含めて依頼する場合などは加算報酬が発生し、報酬額が1%を超えることもあります。また、事務所によって最低料金が設定されており、たとえ遺産が少額でも一定額以上の費用がかかる場合もあります(相場として20~30万円前後の最低料金を設定しているケースが多いようです)。
費用の支払いについては、相続人間で誰が負担するかも事前に話し合っておくと良いでしょう。一般的には相続財産から支払うケース(遺産から税理士費用を差し引いて残りを分配する)が多いですが、各相続人が按分して負担することもあります。いずれにせよ、依頼前に見積書を出してもらい料金体系や支払い方法を確認しておくことが大切です。
信頼できる専門家を選ぶポイント(実績や報酬体系の確認)
相続税申告を依頼する税理士を選ぶ際は、以下のポイントに注目すると良いでしょう。
相続税申告の実績・専門性:
税理士なら誰でも相続税の申告を扱えるわけではありません。相続税は専門性の高い分野のため、「相続税に強い」「相続専門」を掲げる事務所や、過去の相続申告実績が豊富な税理士を選ぶのが安心です。事務所のホームページに申告実績件数や専門分野が記載されていれば参考にしましょう。身近に利用者の口コミや紹介があれば信頼材料になります。
報酬体系の明確さ:
依頼前に料金表や見積もりを明示してくれる税理士を選びましょう。相続税申告の報酬は前述の通り資産規模で概ね決まりますが、事務所によって基本報酬に加えて財産の種類・件数ごとに加算があったり、税務調査対応費用や相談料が別途かかる場合もあります。不明瞭な料金体系のまま契約すると後から「聞いていなかった追加料金」が発生する恐れもあります。特に成功報酬型(減額できた税額の◯%を成功報酬として後日支払う等)を採用している事務所もありますが、人によっては割高になるケースもあるため注意が必要です。最初の問い合わせ時や無料相談の段階で、料金についてしっかり説明してくれる専門家を選ぶと安心です。
コミュニケーションと相性:
最終的には税理士本人の人柄や説明のわかりやすさといった相性も重要なポイントです。相続税の申告ではプライベートな財産内容を詳しく共有する必要があります。相談しづらい雰囲気の専門家よりも、質問に丁寧に答えてくれて信頼できる人に任せたいものです。初回相談(最近は無料相談を実施する事務所も多いです)を利用して、対応が親身か、自分たちの状況をきちんと理解してくれるか、といった感触を確かめることも大切です。
以上の点を踏まえて総合的に判断し、「この人なら安心して任せられる」と思える専門家に依頼すると良いでしょう。相続は人生でも大きな出来事です。信頼できるパートナー選びが、スムーズな相続手続きと納得のいく申告の第一歩と言えます。
まとめ(自分で申告するか専門家に任せるかの判断基準)
相続税申告を自分で行うか、それとも専門家である税理士に任せるかは、相続内容の複雑さとご自身の状況・知識によって判断するのがよいでしょう。比較的シンプルな相続(遺産総額が基礎控除内か少し超える程度、財産の種類が預金中心で不動産がない等)であれば、時間と意欲がある方は自分で申告に挑戦してみる価値があります。自力で手続きを行えば税理士報酬を節約できますし、申告準備を通じて相続税の知識を身につけることもできます。
一方、遺産に土地や非上場株式など評価が難しい財産が含まれていたり、相続人や財産が多岐にわたる複雑なケースでは、無理をせず専門家への依頼を検討するほうが結果的に安心で得策です。また、「手続きを自分で進める時間的余裕がない」「計算ミスや書類不備が不安で心配」という方も、税理士のサポートによって大きな負担軽減と安心を得られるでしょう。プロに任せれば正確かつ有利な申告が期待でき、万一のトラブル対応まで任せられます。
総じて、「費用を節約してでも自分でやり遂げたいか」それとも「費用をかけても安全に任せたいか」という軸で考えると判断しやすいかもしれません。相続税申告はやり直しがきかない一度きりの手続きです。不安が大きい場合には無理をせず専門家に相談し、納得のいく形で大切な相続手続きを完了させましょう。