土地相続とは?司法書士がわかりやすく簡単に解説!

遺留分減殺請求の有効期限は、遺留分の侵害を知った日から1年間です。期間を過ぎてしまうと、時効が来て消滅してしまいます。ただし、手続き中に時効の進行を止めることは可能です(例えば、遺留分の請求を内容証明郵便で相手に送る)。その後何もしなければ、今度は金銭支払請求権(遺留分減殺請求権を使うことによって発生する権利)の時効がやってきます。金銭支払請求権の時効は、10年(2020年4月1日以前は5年)。それを過ぎると請求できなくなるので注意が必要です。
土地相続とは?司法書士がわかりやすく簡単に解説!

土地相続とは。専門家がわかりやすく簡単に解説!

土地相続とはその言葉のとおり、土地を相続することをいいます。土地相続には、自宅や賃貸不動産だけでなく、売ることができずに持て余している山林や原野なども相続の対象です。

不動産は現金のように分割することが難しく、誰も相続したがらないような土地という場合もあることなどから、土地相続は、問題が生じやすいといわれています。また、土地の用途は幅広く、評価方法も異なるため、将来土地相続が起こると予想される場合は、専門家に依頼する・しないにかかわらず、相続に備えてある程度の知識を深めておくとよいでしょう。

本記事では、土地相続について知りたい人向けに、土地相続を
・自宅や賃貸不動産の相続
・売れずに持て余している土地(山林等)の相続
・農地の相続
の3種類に分けて、評価や処理方法についてわかりやすく説明します。

土地相続が発生したら

相続する財産の中に土地があった場合、どのように対処したらよいのでしょうか。
土地相続が発生した場合の、主な流れを見てみましょう。

相続する“土地”を明らかにする

故人が遺した不動産を全て明らかにします。「この土地しか遺していないだろう」と思っていても、調べていくうちに意外な不動産が出てくるケースも珍しくありません。もし、相続の手続きが終わってしまった後に故人が所有していた不動産が見つかると、相続税の修正申告をする必要が出てきます。そうすると、遺産分割協議を再度開いたり、申告後であれば延滞税が発生したりと、よいことはほとんどありません。

故人が所有していた全ての不動産を把握するには、
・遺言書に記載されている不動産情報
・名寄帳に記載されている課税対象の不動産
・固定資産税通知書などの郵便物
・登記簿事項証明書に記載されている不動産情報
などを調べるとよいでしょう。

“土地”の分割方法を決める

故人が所有していた土地を確認したら、相続人で土地の分割方法を決めます。
土地の分割方法は、以下の4種類です。

・代償分割:現物を相続する代償として、現物に相当する現金などを他の相続人に渡す方法
・現物分割:相続財産を現物で分割する方法
・換価分割:土地などの現物を売却して現金化しそれを分割する方法
・共有分割:土地などの現物を複数の相続人で相続する方法。現物の所有者は共有名義になる

相続税を計算する

土地の分割が決まったら、土地を含めた全ての財産にかかる相続税を計算します。
相続税が発生するかどうかを把握するには、以下の算式に数字を当てはめると計算できます。
課税価格の合計-基礎控除額(3,000万円-600万円×相続人数)=課税遺産総額

例えば、5,000万円の遺産を4人の相続人で相続する場合は、相続税は発生しません。
5,000万円-(3,000万円-600万円×4人)=-400万円

けれども、課税遺産総額が基礎控除額を上回る場合は相続税が発生し、各相続人が支払う相続税額を算出する必要があります。例えば、課税価格の合計が1億円で、それを4人の相続人で相続する場合の課税遺産総額は、4,600万円です。
1億円-(3,000万円-600万円×4人)=4,600万円

上記の例では、4,600万円に対して相続税がかかります。
以下の記事に事例を用いた相続税の計算方法を解説しています。相続税の計算方法について詳しくは、こちらをご参考ください。
⇒『自分の相続税の税率はどれくらい?計算式と流れを解説!』

“土地”を相続したら、相続登記を忘れずに!

土地や建物などの不動産を相続したら、相続登記を忘れないようにしましょう。相続登記とは、法務局で保管されている登記簿に、その不動産の所有者を登録する制度のことです。相続登記は、2024年4月1日より義務化となり法的義務が生じます。義務化後は、登記期間が過ぎても手続きを済ませていないケースに対して、10万円以下のペナルティが科されますので注意が必要です。
相続登記のやり方については、こちらの記事をご参考ください。
⇒『相続登記に必要となる書類と用意の仕方』

自宅や賃貸不動産の相続

自宅や賃貸不動産の相続で重要なのは、土地の評価です。土地の評価が正しくないと、正確に相続税の計算ができなくなります。

土地相続における土地の評価方法

土地の評価方法には、「路線価方式」と「倍率方式」の2種類があります。路線価がある場合は前者、なければ後者を用いて計算しますが、路線価の有無は国税庁のホームページで確認できます。

計算式
関連情報

路線価方式
路線価×地積×補正率
路線価の確認先

倍率方式
固定資産税評価額×評価倍率
評価倍率表の確認先

①路線価方式を用いる際の留意点
所有している土地は、その形状や立地条件などによって利便性が下がることがあります。その点を考慮しているのが、補正率と呼ばれているものです。
◯主な補正率の種類
・奥行価格補正率:奥行きが長すぎる、または短すぎる土地に適用される
・間口狭小補正率:間口が狭い土地に適用される
・奥行長大補正率:間口が狭く奥行が長すぎる(間口の2倍以上の長さ)土地に適用される
・不整形地補正率:形状がいびつな土地に適用される

補正率には、それぞれ算式があります。最初に補正率を計算してから上記の算式に当てはめて、最終的に土地の評価額を算出します。

②倍率方式を用いる際の留意点
倍率方式の計算で参考にする「固定資産税評価額」は、毎年4月1日に更新される固定資産税評価証明書にて確認可能です。固定資産評価額自体は、3年に1度の「評価替え」によって変化しますが、最新の固定資産評価証明書を取得し、相続を開始した年度の評価額を確認しましょう。

自宅(戸建て)を相続した場合の評価方法

自宅を相続した場合は、土地と家屋を別々に評価します。

①土地の評価方法
土地の評価方法は、国税庁のホームページで路線価のある・なしを確認してから、路線価方式または倍率方式で計算します。

◯路線価方式で計算する場合(例:路線価12万円、地積200㎡、奥行き9m)
・路線価方式の算式:路線価×地積×奥行価格補正率
・土地の評価額:12万円×200㎡×0.97※=2,328万円
※奥行価格補正率表を参照。

◯倍率方式で計算する場合(例:固定資産評価額 3,000万円、評価倍率 1.1)
・倍率方式の算式:固定資産税評価額×評価倍率
・土地の評価額:3,000万円×1.1=3,300万円

②家屋の評価方法
・計算式(自宅):固定資産税評価額×1

自宅として使用していた家屋の評価額は、固定資産税評価額と同額です。例えば、固定資産税評価額が1,500万円であれば、家屋の相続税評価額も1,500万円です。

賃貸不動産(戸建て)を相続した場合の評価方法

賃貸不動産の場合も、土地と家屋をそれぞれ評価します。

①土地(貸家建付地)の評価方法
・計算式:自用地評価額※1×(1-借地権割合※2×借家権割合※3)
※1 路線価方式(路線価×地積)または倍率方式(固定資産税評価額×倍率)のいずれかで算出される、自己使用する土地の評価額。
※2 地価に占める借地権の割合分の評価額。30~90%に設定されていて、10%刻みで7段階の評価がある。国税庁の「路線価図」で確認できる。
※3 賃貸不動産を相続した際の相続税評価額に占める借家権の割合分の評価額。全国一律30%。

以下の設例で、土地を評価してみましょう。
◯設例
・自用地評価額:1億円
・借地権割合:60%
・借家権割合:30%

1億円×(1-60%×30%)=8,200万円

②家屋の評価方法
・計算式:固定資産税評価額×(1-借家権割合)

例えば固定資産税評価額が1億円で、借家権割合が30%だった場合の家屋の評価額は、7,000万円です。

1億円×(1-30%)=7,000万円

貸家建付地として計算するのは、賃借人がいることが前提です。もし、相続開始時に賃借人がいない場合は、自用地・自用家屋としてそれぞれ評価します。

マンションやアパートを相続した場合の評価方法

賃貸していたマンションやアパートを相続した場合は、以下のように計算します。

・土地の評価額:自用地評価額×(1-借地権割合×賃貸割合※4)
・家屋の評価額:自用建物評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
※4 建物の延べ床面積に占める、賃貸されている床面積の割合。

設例をもとに計算してみましょう。

◯設例
・自用地評価額:3億円
・自用建物評価額(マンション):2億円
・部屋数:30㎡×20室
・借地権割合:60%
・借家権割合:30%
・賃貸割合:80%(480㎡/600㎡)
※20室中4室が空き室

・土地の評価額:3億円×(1-60%×80%)=1億5,600万円
・家屋の評価額:2億円×(1-60%×30%×80%)=1億7,120万円

地方の山林等売れない土地の相続と処理

相続した土地の中には、地方の山林など売ることもできずに持て余しているものもあります。
このような土地の処理方法を、以下にご紹介します。

相続土地の国庫帰属制度

相続土地の国庫帰属制度とは簡単に言うと、相続した土地を国に返すことです。同制度は、所有者不明の土地を減らす目的で国が2023年4月27日より実施しています。

国庫帰属制度を利用できる土地には以下のような条件があり、条件を満たさない場合は帰属を認めてもらえません。
・建物や道路がかぶっていないこと
・汚染されていないこと
・隣の土地との境界線が明確であること
・管理が難しくないこと
・権利(担保権や使用権など)が生じていないこと
など。

また、費用として審査料(一律14,000円)に加えて10年分の管理費を支払う必要があります。

国庫帰属制度について詳しくは、法務局の該当ページをご参考ください。
・参照:『相続土地国庫帰属制度について』

民間に引き取ってもらう場合でも費用は掛かる

国庫帰属制度による引き取りがだめだったとしても、民間であれば引き取ってくれる可能性があります。ただし、各不動産取引業者によって手数料や利用条件にばらつきがあるため、利用する際は事前にサービス内容を確認しましょう。これは筆者が個人的に把握していることですが、ある企業では管理人固定資産税20年分の手数料を設定しています。

売れない・不要な土地でも相続登記は必要

持て余している土地であっても、相続登記は必要です。売れる土地は手元に置き、売れない土地だけ相続しないということはできません。加えて相続登記は義務化となりますので、相続した土地は全て登記しましょう。

登記簿上の地目が農地の相続と処理

農地は、他の土地と区別されその取り扱い方には特定のルールがあります。登記簿上で「農地」に区分されている土地の相続とその処理方法について、解説します。

農地の相続とは

農地の相続とはその名のとおり、被相続人が所有していた農地を引き継ぐことをいいます。農地も財産の一つ
に該当しますので、引き継いだ時は当然相続税が発生します。

農地に対する相続税はどう計算する?

農地の相続税を計算するには、最初に農地の評価をします。
農地を評価する手順は以下のとおり。
①農地の区分を確認する(国税庁のホームページにある倍率表で確認可)
②各区分の評価方法にそって農地を評価する

農地の区分と評価方法を一覧にまとめました。
農地の区分
評価方法

純農地
固定資産税評価額×倍率

中間農地
固定資産税評価額×倍率

市街地周辺農地
市街地農地と想定した場合の価格×80%

市街地農地
・宅地比準方式(市街化区域以外の地域):(宅地と想定した1㎡あたりの評価額-造成費(1㎡あたり)×地積
・倍率方式(市街化区域内にある倍率地域):固定資産税評価額×倍率

例えば、相続した農地(地目は「田」)が「純農地」に区分されたとしましょう。
純農地の評価は、倍率方式を使います。
◯設例
・相続した農地(地目):田
・農地区分:純農地
・固定資産税評価額※1:10万円
・倍率※2:46
※1 納税通知書内の「課税明細書」または固定資産税評価証明書で確認可能
※2 評価倍率表内の「固定資産税評価額に乗ずる倍率等」で確認可能

設例における農地を評価してみましょう。
・倍率方式の算式:固定資産税評価額×評価倍率
・農地の評価計算:100万円×46=4,600万円

設例では、相続した農地の評価額は4,600万円でした。これを他の相続財産に加えて相続税を計算します。

農地を相続した場合に必要な手続き

農地を相続した場合に必要な手続きは、相続登記と農業委員会への届出です。後者は農地管理を目的とした組織で、農地を相続した人は、相続したことを知った日から10か月以内に同委員会へ届出することが義務付けられています。

農業委員会への相続の届出には、以下の書類を準備します。
・届出書
・登記簿謄本(相続登記済みであること)

農業委員会は、各市町村に設置されています(ただし、小規模な自治体では設置されていないところもあります)。手続きの際は、最寄りの市町村に設置の有無を確認しましょう。なお、届出は無料です。

農地を相続したくない場合にできる選択は?

農地を相続したくない場合は、以下の方法で処分することを考えましょう。

①相続放棄
相続放棄とは、相続人が財産を引き継ぐ権利を放棄することです。被相続人が亡くなってから3か月以内でかつ財産に手を付けていないのであれば、相続放棄が可能です。ただし、いったん相続放棄をすると撤回できないうえ、プラスの財産も受け取ることができなくなります。相続放棄をした場合としなかった場合のどちらに大きなメリットがあるかを事前に検討してから判断するとよいでしょう。

②売却
農地を処理する方法の一つとして、売却が挙げられます。ただし、農地は農地法に守られているため、売却には制限があります。例えば、農地として売却する場合は、農業を営んでいて必要な機材をそろえているなどの要件を満たした人のみが購入可能です。

農地を宅地などに転用してから売却することもできます。ただし、転用後の事業計画を具体的に立てたうえでないと、売却を認められる可能性はかなり低いでしょう。
いずれにしても、売却する際は農地委員会へ届出をして許可を得る必要があります。

司法書士 飯田 真司

<strong>飯田 真司</strong>

信託相続先生の司法書士飯田真司と申します。大学在学中はお笑い芸人を目指していたものの、挫折し、司法書士の道へと方向転換致しました。司法書士として頑張りつつも、たまに漫才イベントを企画しています。

専門分野・得意分野
家族信託、相続関連
資格
  • 司法書士(法人登録番号:11-00552、登録番号:6918)
  • 簡裁代理(認定番号:1401068)
所属団体名
東京司法書士会
所属事務所
司法書士法人クラフトライフ
所属事務所の所在地
東京都世田谷区用賀4丁目28番21号

活動実績・専門分野

財産の管理・承継に関するリスクマネジメントとその手続きを専門分野とする。司法書士の専門である法務だけでなく、税務、財産活用等多角的な視点による提案力が強み。大手保険代理店、医療法人、社会福祉協議会等、セミナーや勉強会実績多数。

  • 相続登記
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私たちは、司法書士と税理士を中心とする、相続や家族信託のプロフェッショナルです。「何をすればいいか分からない」といった段階からご相談頂けますので、お気軽にご相談下さい。

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