相続順位とは?司法書士がわかりやすく簡単に解説!
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相続順位とは。わかりやすく簡単に解説致します!
相続順位とはその名のとおり、相続人が遺産を引き継ぐ順位のことです。相続順位は3段階あり、亡くなった人との続柄によって順位が決められています。相続順位に関しては、インターネットを使えば簡単に情報を収集できるでしょう。けれども、相続人の中に養子がいたり、被相続人には腹違いの兄弟がいたりするなど人間関係が複雑な場合は、相続順位をどのように解釈したらいいのか戸惑うかもしれません。
そこで本記事では、相続順位の基本的な情報から複雑なケースの場合における相続順位の考え方までわかりやすく解説します。さらに、「特別受益」や「寄与分」など遺産分割にかかわる用語についても説明します。
相続できる人は法定されている
相続順位は、民法で定められている相続人(法定相続人)を対象としています。
対象となる人は、以下のとおりです。
・配偶者:法的に婚姻が認められている人。事実婚は含まれません。
・直系卑属:被相続人の子と代襲相続人
・直系尊属:被相続人の父母や祖父母
・傍系血族:被相続人の兄弟姉妹と代襲相続人
代襲相続人とは、相続発生時点において、既に法定相続人が死亡していた場合に、その相続人の地位を取得する人を指します。代襲相続人となり得るのは、被相続人の孫、ひ孫といった直系卑属か、被相続人の甥姪です。代襲相続人が複数いる場合には、全員が相続人となります。
法定相続人のうち、配偶者以外には以下のように相続順位がつけられています。
・第1順位:直系卑属
・第2順位:直系尊属
・第3順位:傍系血族
優先順位が一番高いのは、第1順位です。第1順位に該当する相続人がいない場合は、第2順位に相続する権利が移ります。第3順位の相続人は第1順位・第2順位の相続人がいない場合に相続する権利を有することとなり、第3順位もいないという場合は、被相続人の財産は、法定された過程を経た上で、最終的には国庫に帰属されます。
ここで留意するのは、優先順位の相続人が全ていなくなった(相続発生時点おいて既に死亡している場合、相続放棄した場合、もともと存在しない場合)時点で、次の順位に相続の権利が移るということです。例えば、第1順位の相続人が3人いて、うち1人が相続放棄をしたとしても、相続する権利は第1順位にとどまります。
法定相続人と法定相続分の一覧
法定相続分とは、法定相続人が受け取る遺産の取り分のことです。法定相続分は民法で定められていて、遺産を分割する際の目安となります。
各法定相続人の法定相続分は、以下のとおりです。
法定相続人
法定相続分
配偶者
1
第1順位
配偶者
1/2
子、代襲相続人
1/2
第2順位
配偶者
2/3
父母/祖父母
1/3
第3順位
配偶者
3/4
兄弟姉妹/代襲相続人
1/4
養子がいる場合の相続順位
養子の相続順位は、被相続人と血のつながりのある子(実子)と同じ第1順位です。血はつながっていなくても被相続人の子としてみなされるため、法定相続分にも他の子との差はありません。ただし、養子の子や孫は、養子縁組をした後に誕生したことが法定相続人となる条件で、養子縁組をする前の子や孫は対象外となります。
養子のように血のつながりのない人も法定相続人とみなされるのであれば、被相続人と近い関係にあった人も法定相続人になれるのでは、と考えるかもしれません。しかし、養子が法定相続人となるのは法的に被相続人と親子関係が認められるからです。
以下の立場の人は、被相続人と近い存在でも法定相続人になれません。
・内縁のパートナー
・被相続人の元妻/夫
・再婚した相手の連れ子
・子の配偶者(義理の娘や息子)
前妻(夫)、後妻(夫)の子がいる場合の相続順位と相続分
被相続人が再婚して前妻(夫)と後妻(夫)の間にそれぞれ子供をもうけた場合、
・両親を同じくする兄弟姉妹
・片親(被相続人)のみが同じ兄弟姉妹
という関係が生まれます。
この場合でも、被相続人の子であることに変わりがなければ相続順位も法定相続分も同じです。注意するのは、被相続人の半血兄弟姉妹。被相続人と片親のみを同じくする兄弟姉妹の相続順位は第3順位ですが、彼らの法定相続分は両親を同じくする兄弟姉妹の半分です。
例えば、故人が遺した遺産総額6,000万円を、故人の配偶者と兄、父が異なる妹の3人で分割するとしましょう。この場合の法定相続分は、
・配偶者:4,500万円
・兄:1,000万円
・異父妹:500万円
です。
長男だからといった続柄と性別は関係ない
民法は、法定相続人の範囲や相続する順番、さらに遺産の取り分を定めています。続柄による差はありますが、「長男が次男よりも優先順位が高い」「女性よりも男性の方が取り分は多い」といった決まりはありません。
相続においては、生まれた順番や性別に関係なく子は平等です。たとえ養子でも、被相続人と戸籍上親子であると認められれば、実子と同じ条件で遺産を相続できます。
ただしこれは法定相続分をもとに遺産を分割する場合のことであり、遺言書による遺産分割とは異なります。
遺言があると相続順位が変わることも
被相続人の遺言を書き記した遺言書がある場合は、原則としてその内容にそって遺産を分割します。そのため、同じ子でも引き継ぐ遺産の割合に差が出たり、法定相続人ではない第三者が遺産を承継することもあります。また、遺言者は自らの意志によって相続順位を決めることができるため、遺言書における相続では必ずしも相続順位どおりにいかない点には留意すべきでしょう。
特別受益と寄与分について簡単に知っておこう
相続の中には、特別受益や寄与分について考慮するケースがあります。どちらも相続における身近な考え方ですので、相続前に知っておくと便利です。
特別受益とは
特別受益とは、特定の相続人が、被相続人の存命中に贈与などで受けた利益のことをいいます。「特別受益の持ち戻し」は、相続人の間でできるだけ不公平を減らすことを目的とする考え方で、特別受益であると認められた財産を相続時に足し戻します。その結果、贈与を受けた相続人の相続分は減らされるというわけです。
特別受益の例
◯設例
・被相続人:父A
・相続する遺産の総額:1億5,000万円
・相続人:母B、長男C、長女D
・特別受益:長女Dは生前父Aから株式1,000万円(相続時の時価は2,000万円)の贈与を受けている
特別受益を考慮していない場合の相続人の法定相続分は、以下のとおりです。
・母B(1/2):7,500万円
・長男C(1/4):3,750万円
・長女D(1/4):3,750万円
長女Dが父Aから引き継いだ株式を特別受益として、これを加味した計算をする場合、法定相続人の相続分は以下のように算出されます。
・母B:(1億5,000万円+2,000万円)×1/2=8,500万円
・長男C:(1億5,000万円+2,000万円)×1/4=4,250万円
・長女D:(1億5,000万円+2,000万円)×1/4-2,000万円=2,250万円
ここで注意するのは、特別受益は贈与時ではなく相続時の時価を用いるという点です。
このように特別受益を考慮することで、相続分は調整されます。
寄与分とは
寄与分とは、被相続人に「特別に寄与した人」に対して、その労力に見合った財産を支払う考え方です。例えば、被相続人が亡くなるまで無給で身の回りの世話を続けた人や、ビジネスにおいて損得を顧みず援助をしていた人などが当てはまります。寄与分が発生すると法定相続分での分割が難しくなり、遺産分割協議で話し合う必要が出てくるでしょう。
寄与分の例
◯設例
(計算式は一例です。また、寄与分が認められるか否かについては、一概には言えません。あくまで参考例としてお考え下さい。)
・被相続人:父A
・相続する遺産の総額:8,000万円
・相続人:長男B、長女C
・寄与分:長女Cは、10年間父Aの身の回りの世話を無給で行っていた。
得られるはずだった年間賃金は、258万円(令和4年賃金センサス参照)
生活控除割合:40%
長女C(家庭従事者)の寄与分は、以下の算式を使って計算します。
得られるはずだった年間賃金×(1-生活控除割合)×寄与年数
算式に数字を当てはめて、設例の寄与分を求めます。
258万円×(1-0.4)×10年=1,548万円
ここでの寄与分は、1,548万円です。
算出した寄与分は、遺産の総額8,000万円から差し引きます。
8,000万円-1,548万円=6,452万円
6,452万円を相続財産として、各相続人に分割します。
・長男B(1/2):3,226万円
・長女C(1/2):3,226万円
長女Cには、寄与分を加算。各相続人の取得分は以下のようになりました。
・長男B(1/2):3,226万円
・長女C(1/2):4,774万円
特別受益や寄与分の主張は争いを覚悟する
特別受益や寄与分は、相続人同士で争いに発展しやすいといわれています。特別受益の持ち戻しは相続時の時価を用いるため、贈与の時よりも増えている場合は、遺産の取り分を大幅に減らされる可能性があります。寄与分においては「これだけ貢献した」という度合いを数値化しにくく、人によって受け止め方が異なります。これらの考え方は“受け止め方”に頼る面が大きいため、特別受益や寄与分を考慮した遺産分割に不満を持つ相続人が出て来やすいのです。特別受益者や寄与分を認めて、これを加味した遺産分割を行うか、これを加味するとしても、それを幾ら分として認めて計算するかという2段階の問題があり、これらの主張は争い覚悟で臨む必要があるでしょう。
遺産分割協議で話し合いが決裂し合意に達しない場合は、家庭裁判所において遺産分割調停を行います。調停でも解決が難しいという場合は、遺産分割審判に持ち越されて決着をつけることになるでしょう。
遺留分について簡単に知っておこう
遺留分は、相続でよく用いられている言葉です。法定相続分との違いなど遺留分について簡単に知っておくだけでも、遺産分割の話し合いを進めやすいでしょう。遺留分とは何か、相続順位とどのように関係があるのかなどについて見てみましょう。
遺留分とは
遺留分とは簡単に言うと、法定相続人が最低限受け取ることのできる遺産割合のことです。例えば、被相続人が「遺産の全額を同居していたパートナーに相続させる」との遺言書を遺した場合、被相続人の子は遺産を受け取れなくなります。こうした事態を避けるために、被相続人の配偶者と子、父母には、遺留分を主張する権利が認められています。
遺留分の割合
個別の遺留分割合の計算式は次の通りです。
〇 法定相続人が直系尊属のみ場合は、法定相続分×3分の1
〇 その他の場合は、法定相続分×2分の1
なお、兄弟姉妹は、相続人となる場合であっても、遺留分は認められておらず、甥姪も同様となります。
相続人の構成
遺留分
各相続人の遺留分
配偶者のみ
1/2
1/2
子のみ
1/2
1/2÷子の数
直系尊属のみ
1/3
1/3÷直系尊属の人数
配偶者+子
1/2
配偶者 1/4
子 1/4÷子の数
配偶者+直系尊属
1/2
配偶者 2/6
直系尊属 1/6÷直系尊属の人数
遺留分侵害額請求とは
相続人は遺留分を侵害された場合、侵害された人に対して遺留分を請求できます。これを遺留分侵害請求といいます。例えば、「遺産の全額を同居していたパートナーに相続させる」との遺言書を被相続人が遺した場合、被相続人の子は、同居していたパートナーに対して遺留分の支払いを求めることができます。
遺留分侵害額請求ができる期間
遺留分侵害額請求ができるのは、相続が開始し、かつ、遺留分が侵害されたことを知った日から1年間です。
例えば、相続があったことは知っていたものの、遺留分を侵害されている事実を知ったのが、相続開始を知ったときから5年後であったとしても、遺留分侵害額請求は可能です。ただし、相続を開始してから10年が過ぎると、どのような理由があっても遺留分侵害額請求は出来なくなる点には注意が必要です。
遺留分侵害額請求の手続きの流れ
遺留分侵害額請求は、以下のステップを踏みます。
遺留分についての話し合い
遺留分を侵害した相手と、遺留分について話し合います。ただ、話し合いでの解決の見込みが薄い場合や、請求可能期間が迫っているような場合には、このステップは飛ばして次に進みます。
郵送による遺留分の請求
①で遺留分の支払いが合意に達しない場合若しくは飛ばして進める場合は、配達証明付きの内容証明郵便で相手に遺留分の請求書を送ります。配達証明付きの内容証明郵便では、送達の事実と、送達した郵便物の内容の証明が可能となります。相手方に「知らない」「届いていない」と言わせないために必要となります。遺留分侵害額請求の時効を止められます。
なお、配達証明付き内容証明郵便により、時効により遺留分減殺請求が出来なくなることは防げます。正確には、配達証明付き内容証明郵便である必要はないのですが、相手方に時効消滅を主張させないための証拠を残す意味で必要となります。
③遺留分調停の申立て
②を済ませても遺留分が支払われない場合は、家庭裁判所に遺留分調停の申立てを行います。調停委員を介して相手との話し合いが行われ、合意に至ると合意事項を盛り込んだ調停調書が作成されます。
④遺留分侵害額請求訴訟
③で合意に至らない場合は、遺留分侵害額請求訴訟を提起し法廷で争うことになるでしょう。和解が成立すれば訴訟は終わりますが、判決に不服という場合は控訴することも可能で、事案によっては何年も争うこともございます。
おわりに
相続順位について、「わかりやすく、簡単に。」をテーマとして解説しました。あくまで基礎的な知識の解説に留まりますが、相続についてのご理解を深めるきっかけとなれば幸いです。
相続は、本記事で解説させて頂きましたような法律のことだけでなく、税金のこと、財産の活用のこと、ライフプランのことなど、複数の専門的観点による検討がとても重要となります。これらは相互に影響するもので、税金のことに偏り過ぎて、財産の活用が出来ない、相続争いが生まれてしまうといったこともあるためです。
相続の発生前や、相続発生後の遺産分割協議前のような、何かを決めていく段階では、如何に早く専門家に相談にいくかが、失敗しない、後悔しない、より良い結果とするためには重要となりますので、ご自身の知識を深めつつも、お早めにご相談もご検討されてみて下さい。