相続時精算課税制度とは?税理士がわかりやすく簡単に解説!
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相続放棄の手続きを何らかの理由で熟慮期間に終わらせることができなかった場合は、家庭裁判所に延長の申立てをしなければなりません。そうすると上申書など新たな書類の作成をする必要が出てきますが、専門家に依頼していれば相続放棄申述書だけでなく上申書の作成も代行してもらえるでしょう。
相続時精算課税制度とは?税理士がわかりやすく簡単に解説!
相続時精算課税制度とは。わかりやすく簡単に解説!
相続時精算課税制度とは、贈与した財産を相続する財産に加えて相続税を計算する制度のことです。この相続時精算課税制度が創設された趣旨は「高齢化の進展に伴って相続による次世代への資産移転の時期がより後半にシフトしていることから、資産移転の時期の選択に対する中立性を確保することが重要となってきている。高齢者の保有する資産(金融資産のみならず住宅等の実物資産を含む)が現在より早い時期に次世代に移転するようになれば、その有効活用を通じて経済社会の活性化に資するといった点も期待されよう。」、このような趣旨で相続時精算課税が創設されました。この制度には、贈与した財産に対して相続時に税金がかかるという特徴から、メリットとデメリットの両方があります。制度を活用したいのであれば、その仕組や内容に理解を深めるとともに、暦年贈与など関連した制度と絡めながら、利用すべきかどうかを見極める必要があるでしょう。
本記事では、相続時精算課税制度に関する基本的な情報から制度を利用する際の注意点を解説するとともに、関連した制度についてもわかりやすくご紹介します。
相続時精算課税制度とは
相続時精算課税制度は、贈与した財産に対して贈与時だけではなく相続時に税金を計算するという点に特徴のある制度です。通常贈与税がかかるのは、年間110万円を超えてからですが、相続時精算課税制度を利用した場合は、2,500万円までが非課税となります(2024年1月以降は、ここに年間110万円の基礎控除が加わります)。そして、贈与した人が亡くなった時に、贈与された分を加算し相続税を算出します。
簡単な例を挙げてみましょう。父が自分の財産から1,500万円を娘に贈与しました。贈与額が2,500万円以下ですので、贈与税はかかりません。その後父は、5,000万円の財産を遺して亡くなりました。相続税を計算する際は、5,000万円の遺産に生前受け取った1,500万円を加算します。
相続時精算課税制度の利用条件
制度を利用するには、以下の利用条件を満たす必要があります。
・贈与者:贈与した年の1月1日時点で、60歳以上の父母または祖父母
・受贈者:贈与を受けた年の1月1日時点で、18歳以上の子や孫(直系卑属)
・贈与があった翌年の2月1日から3月15日までに届出及び申告をする
相続時精算課税制度は、令和5年度税制改正大網によって一部変更されました。
現行制度との違いを比較してみます。
改正前
改正後
・年間110万円の基礎控除は加味されない
・たとえ少額でも贈与税の申告が必要
・2,500万円(特別控除)と年間110万円(基礎控除)の合計額を控除
・年間110万円以下なら贈与税の申告は不要
相続時精算課税制度のメリットとデメリット
小見出し1 相続時精算課税制度のメリット
①生前にまとまった財産を贈与できる
この制度のメリットは、まとまった財産を贈与しても、通常の贈与税がかからない点です。通常生前に財産を贈与する場合は、年間110万円までが非課税となります(暦年贈与)。相続時精算課税制度を利用すれば、非課税枠は2,500万円(改正後は実質2,610万円)まで拡大されます。
②相続税が0円の場合は贈与税も0円になる
相続時精算課税制度では、控除額以下の贈与であれば、贈与税は発生しません。さらに、贈与した財産を加えた遺産の総額が基礎控除よりも低くなれば、相続税は0円です。つまり、制度を利用すると、相続税と贈与税の両方を支払わなくて済む可能性があるということです。
③将来的に相続税を抑えることができる
例えば、贈与時は1,000万円の評価額だった株式が相続時に4,000万円になったとしても、相続税の計算では贈与時の時価(1,000万円)が用いられます。値上がりした分は考慮されないため、その分相続税を抑えられます。
小見出し2 相続時精算課税制度のデメリット
①制度利用の取消ができない
相続時精算課税制度を利用すると、撤回できません。つまり、贈与者が亡くなるまで制度を利用し続ける必要があります。
②単なる税金の先送りとなる場合がある
相続時精算課税制度を利用すると贈与された財産に対して控除額分は免除されますが、相続税は課されます。このように、相続時精算課税制度による贈与税の免除は単なる税金の先送りになるだけで、節税にはつながらないと考えられるのです。相続税は相続する財産が基礎控除額を上回った場合に発生しますが、贈与された財産を上乗せすることによって相続税が高額になると予測される場合は、制度を利用しない方がよいかもしれません。
③特例によっては併用ができない
相続税や贈与税を減額する制度は複数ありますが、中には相続時精算課税制度との併用ができないものもある点には注意しましょう。併用できない制度については後述しますが、他の制度の利用も視野に入れている場合は、併用の可否を確認するようにしましょう。
相続時精算課税制度の必要書類
相続時精算課税制度に必要な書類は、以下の5点です。
書類名
入手先
相続時精算課税選択届出書
各税務署またはこちらよりダウンロード可
贈与税の申告書
各税務署またはこちらよりダウンロード可
贈与者の戸籍謄本(または戸籍抄本)
贈与者の本籍地のある市町村役場
贈与者の戸籍謄本(または戸籍抄本)
上記に同じ
本人確認書類(個人番号カード等)
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相続時精算課税制度利用の手続きの流れ
同制度の主な手続きの流れは以下のとおりです。
①必要な書類を用意する
②手続きにかかる費用を用意する
③納税地を管轄している税務署に①を提出する
相続時精算課税制度の注意点
「制度を利用しなければよかった」という結果を避けるためにも、制度を利用する際には、以下の点に注意しましょう。
・小規模宅地等特例が使えなくなる
・暦年贈与の基礎控除が使えなくなる
・申請には期限がある
小規模宅地等特例が使えなくなる
小規模宅地等の特例は、故人から引き継いだ宅地や使途に応じて適用される制度のことです。要件に該当すれば、宅地面積に対して最大80%が控除されます。小規模宅地等の特例も相続税の減額が期待できますが、相続時精算課税制度との併用はできません。
暦年贈与の基礎控除が使えなくなる
暦年贈与とは簡単に言うと、年間110万円以下の贈与に対しては税金がかからないという制度です。暦年贈与と相続時精算課税制度との併用はできないため、後者を選んだ場合は、暦年贈与の基礎控除が利用できなくなります。制度の改正によって毎年110万円の基礎控除が加わりましたが、暦年贈与との併用はできないことに変わりはありません。
申請期限がある
相続時精算課税制度には、申請期限があります。制度を利用したい場合は、最初の贈与があった翌年の2月1日~3月15日までに、「相続時精算課税選択届出書」と添付資料を所轄税務署に提出します。
相続時精算課税制度の活用例
相続精算課税制度を活用できるケースと、利用した場合の相続税の計算、さらに贈与税と相続税との比較について、詳しく見てみましょう。
贈与税も相続税も課税されないで済むケース
故人が遺した財産の金額によって相続精算課税制度を活用した結果、贈与税も相続税も課税されずに済む場合があります。それは、2,500万円以下で贈与しさらに遺産の総額が基礎控除額を下回るケースです。
◯設例
【贈与時】
・贈与者:父A
・贈与額:1,500万円
・受贈者:子B
【相続時】
・被相続人:父A
・相続人:子B
・遺産:2,000万円
父Aは、相続精算課税制度を利用して子Bに1,500万円を贈与。控除額を下回るため贈与税はかかりません。数年後父が亡くなり、相続税の計算をする際、過去に受けた贈与額を遺産に加えて相続税を計算します。この場合の相続税の基礎控除額は、3,600万円です。
3,000万円+600万円=3,600万円
子Bが受け取る遺産は3,500万円と基礎控除額を下回るため、相続税は発生しません。
相続税の節税となるケース
相続精算課税制度によって贈与税が免除された財産を相続税の計算に入れる際は、贈与した時点での価額を用います。例えば、贈与時には3,000万円の価値だった不動産が、相続の時には4,000万円に値上がっていたとしても、計算する時は3,000万円の財産として計算するため、結果的に節税につながります。
相続時精算課税制度を利用した場合の相続税の計算
以下の設例をもとに、相続税を計算します。
◯設例
【贈与時】
・贈与者:父A
・受贈者:長男B
・贈与した財産:土地(時価5,000万円)
【相続時】
・被相続人:父A
・相続人:母C、長男B、長女D
・相続する財産:住宅6,000万円、預金2,500万円、現金1,000万円
※葬儀代などの減算項目は省略。
①各相続財産を決める
各相続人の相続内容は以下のとおりです。
・母C:住宅6,000万円
・長男B:現金1,000万円+土地5,000万円
・長女D:預金2,500万円
②課税遺産総額を算出する
・課税価額の合計:6,000万円+1,000万円+2,500万円+5,000万円=1億4,500万円
・基礎控除額の計算:3,000万円+1,800万円=4,800万円
・課税遺産総額の計算:1億4,500万円-4,800万円=9,700万円
③各相続人の法定相続分を計算する
・母C(1/2):4,850万円
・長男B(1/4):2,425万円
・長女D(1/4):2,425万円
④「相続税の速算表」をもとに各相続人の税額と相続税の総額を算出する
・母C:4,850万円×20%-200万円=770万円
・長男B:2,425万円×15%-50万円=313.75万円
・長女D:2,425万円×15%-50万円=313.75万円
・相続税の合計:770万円+313.75万円+313.75万円=1,397.5万円
⑤各相続人の取得割合を計算する
・母C:6,000万円÷1億4500万円=0.41
・長男B:6,000万円÷1億4500万円=0.41
・長女D:2,500万円÷1億4500万円=0.18
※割り切れない分は、小数点以下第2位未満の端数で調整。
⑥各相続人の相続税を算出する
・母C:1,397.5万円×0.41=572.975万円
・長男B:1,397.5万円×0.41=572.975万円
・長女D:1,397.5万円×0.18=251.55万円
贈与税の計算
上記の設例では、長男Bは父Aから評価額5,000万円の土地の贈与を受けました。
相続時精算課税制度では、控除額を超えた分に対して贈与税がかかります。
5,000万円-(2,500万円+110万円)×20%(税率)=478万円
贈与税を支払っていた場合、長男Bが支払う相続税は、949,750円です。
5,729,750円-4,780,000円=949,750円
贈与税の方が相続税より高い
仮に相続時精算課税制度を使わずに、父Aから贈与された土地に対して長男Bが贈与税を支払うとしましょう。
・控除後の金額:5,000万円-110万円(暦年控除)=4,890万円
・贈与税の計算:4,890万円×55%(一般税率)-400万円=2289.5万円
贈与税の方が相続税よりも高くなりました。設例では、生前贈与よりも相続時精算課税制度を利用したほうが節税につながります。
相続時精算課税制度以外の贈与税の非課税特例等
相続時精算課税制度を除く贈与に関する非課税特例には、以下のものがあります。
暦年贈与の基礎控除
暦年贈与とは、年間(1月1日~12月31日)の贈与額が110万円以下であれば税金が科されない制度のことをいいます。1年スパンで見ると少額かもしれませんが、10年後にはトータル1,100万円が非課税になるなど、継続することによって節税効果が期待できます。また、小規模宅地等の特例や教育資金の一括贈与といった他の特例との併用も可能ですので、組み合わせ方によってはより大きな節税につながります。
ただし、贈与者が亡くなる日より7年以内に贈与された財産については相続税がかかる点には注意が必要です。
住宅取得資金等贈与
住宅取得資金等贈与とは、マイホームや省エネ住宅の購入などを目的に贈与された財産に対して、最大1,000万円+110万円まで税金がかからない制度です。同制度は、2023年12月31日まで期間が延長されました。
居住用財産贈与の配偶者控除
居住用財産贈与の配偶者控除とはその名のとおり、居住用不動産の取得のために配偶者に贈与された財産に対して、2,000万円まで控除される制度です。ここには、110万円(基礎控除)も加算されるため、非課税枠は最大2,110万円となります。
教育資金の一括贈与
教育資金の一括贈与(「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税制度」)とは、教育費として子や孫に一括贈与しても、1人あたり1,500万円までなら贈与税がかからないという特例制度です。適用期限は2026年3月31日までと限られていますが、子や孫が多く、教育費としてほぼ確実に使うというのであれば、利用価値の高い制度でしょう。
注意点としては、受贈者が30歳になった時点で使い残しがあった場合は、そこに贈与税がかかることが挙げられます。
結婚・子育て資金の一括贈与
結婚・子育て資金の一括贈与は、結婚資金や出産・育児などの目的で贈与された財産に対して、最大1人あたり1,000万円(結婚資金は300万円)が控除される制度です。まとまったお金を贈与できたり、暦年贈与と併用できたりするなどのメリットはありますが、扶養義務のある親子間であればそもそも生活費(教育費を含む)は非課税となるため、大きなメリットを感じるかどうかはケース・バイ・ケースといえるでしょう。
贈与税、相続税のことは、ちゃんと専門家に相談しよう!
節税を目的とした制度は複数あり、書籍やネットなどから必要な情報を簡単に収集できるでしょう。ただし、税金に関する計算は複雑になることが多く、制度についても専門家の間で解釈が分かれることがあります。贈与税や相続税については独断で判断せずに、専門家に相談することをおすすめします。
ここでは、相続における節税の考え方について簡単に触れてみたいと思います。
相続時精算課税制度の利用が節税になるとは限らない
控除額が大きい相続時精算課税制度には節税効果が期待できますが、必ずしもそうなるとは限りません。確かに贈与税は免除されます。しかし、贈与された財産は相続財産として加算されます。これにより遺産が基礎控除額を上回り相続税が発生したという場合は、節税効果を感じることは少ないでしょう。
税制特例は多種あり、相続税を含めた節税効果測定が必要
贈与税や相続税に関係した税制特例は、多種多様です。その特徴や仕組みから、ある程度の節税効果を予測できるかもしれませんが、ひとつの特例だけを見て「節税になる!」と飛びついたものの、結果的に予想以上の税金を払うことになったというケースも少なくありません。相続時精算課税制度は1度利用したら撤回することはできないうえ、併用できる制度も限られています。現実に即したシミュレーションをしたうえで節税効果を測定するのが理想でしょう。
税対策のみに偏ってしまうと危険
高額になりやすい相続税は、節税対策をする・しないだけで大きな差が出ます。しかし、節税ばかりに気を取られてしまうと、偏りが出てしまい、他のところにしわ寄せが来るかもしれません。
例えば、相続時精算課税制度を利用して、父親が節税目的で自社株を5,000万円で譲渡したとしましょう。時は流れて会社がうまくいき、自社株の評価も5億円に跳ね上がりました。父親が亡くなり、長男と次男、長女で遺産を分割するとなった時に、長男が持つ自社株が「特別受益(被相続人が存命の時に、ある相続人が特定の利益を受けていたとする概念)」とみなされた場合、「特別受益の持ち戻し(遺産分割の時に特別受益を加味して計算すること)」が可能となります。特別受益とみなされた場合の評価額は、相続を開始した時点での時価で計算され、遺産の取り分から5億円を引かれた長男は、他の財産を引き継ぐことができなくなりました。その結果、長男と兄妹の間で遺産分割の話がまとまらず、相続が長引くというケースは少なくありません。
このように、節税目的に制度を使ったとしても、長い目で見た場合にトラブルとなる可能性もあるのです。
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ただ、情報を正確に理解し、適正かつより良い形で組み合わせ、利用出来るかというと、中々ハードルが高いというのが実際のところかもしれません。現に、沢山いる税理士の中で、相続税に関わる業務に長けた税理士は、全体で見れば少数です。
相続というのは人生で何度も経験するものではなく、多額の財産移動を伴うものですから、後悔することのないよう、専門家に依頼されることもご検討下さい。
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