相続税の配偶者控除とは?わかりやすく簡単に解説!
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相続税の配偶者控除とは、配偶者が負担する相続税を軽減する制度のことです。控除額は、遺産総額が「1億6,000万円まで」または「法定相続分まで」で、制度を利用することによって相続税がゼロ円になるケースもあります。その反面、結果的に節税効果が得られなかったというものもありますので、利用する際は慎重に検討するのが得策です。
本記事では、相続税の配偶者控除に関する情報を探している人に向けて、計算方法から利用しない方がいいケース、さらに配偶者控除以外でできる節税方法についてわかりやすく説明します。
相続税の配偶者控除を用いた計算方法
相続税の配偶者控除を用いた相続税の計算方法は、以下のステップを踏みます。
①課税価格を計算する
②課税遺産総額を計算する
③相続税の総額を計算し各相続人の取得割合に応じて分ける
④配偶者控除を計算する
設例をもとに、計算してみましょう。
◯設例
・被相続人:父A
・相続人:配偶者B、長男C、次男D、長女E
・遺産総額:6億円(自宅2億円、土地3億円、預貯金4,000万円、生命保険6,000万円)
・葬儀代:500万円(長女Eが負担)
・生命保険非課税枠:500万円×4人=2,000万円
・住宅ローン:2,000万円
・各相続人の法定相続分:配偶者B(1/2)、長男C(1/6)、次男D(1/6)、長女E(1/6)
課税価格を計算する
課税価格とは、相続税が課される対象となる財産額のことで、故人が遺した遺産総額から債務(借入金など)や葬式費用などを差し引いた差額がそれにあたります。
父Aの遺産を、相続人たちは以下のように分割しました。
・配偶者B:自宅2億円
・長男C:土地3億円
・次男D:生命保険6,000万円
・長女E:預貯金4,000万円
ここから葬儀代と住宅ローンを差し引いて、課税価格を算出します。
・配偶者B:自宅2億円-2,000万円=1億8,000万円
・長男C:土地3億円
・次男D:生命保険6,000万円-2,000万円=4,000万円
・長女E:預貯金4,000万円-500万円=3,500万円
課税価格の総額は、5億5,500万円です。
1億8,000万円+3億円+4,000万円+3,500万円=5億5,500万円
課税遺産総額を計算する
課税遺産総額とは、課税価格から基礎控除額を差し引いた金額のことで、相続税を計算するベースとなります。
・基礎控除額の算式:3,000万円+(600万円×法定相続人数)
・設例における基礎控除額:3,000万円+2,400万円=5,400万円
・設例における課税遺産総額:5億5,500万円-5,400万円=5億100万円
課税遺産総額が基礎控除額よりも少ない場合は、無税です。設例では、5億100万円(課税遺産総額)に相続税がかかります。
相続税の総額を計算し各相続人の取得割合に応じて分ける
各相続人の法定相続分を計算してから各人の相続税分を計算し、相続税の合計を算出します。
法定相続分における各相続人の相続分は以下のとおりです。
・配偶者B(1/2):2億5,050万円
・長男C(1/6):8,350万円
・次男D(1/6):8,350万円
・長女E(1/6):8,350万円
次に、相続税の速算表を参考に各相続人の相続税を計算します。
・配偶者B(1/2):2億5,050万円×45%-2,700万円=8,572.5万円
・長男C(1/6):8,350万円×30%-700万円=1,805万円
・次男D(1/6):8,350万円×30%-700万円=1,805万円
・長女E(1/6):8,350万円×30%-700万円=1,805万円
設例における相続税の合計額は、1億3,987.5万円です。
配偶者控除を計算する
設例における配偶者Bの課税価格は、2億円。1億6,000万円以上ですが、法定相続分(2億5,050万円)を超えていません。つまり、配偶者Bの相続税はゼロ円です。配偶者Bの相続税がゼロとなったため、相続税の合計は長男C、次男D、長女Eにかかる5,415万円のみとなります。
法定相続分も1億6,000万円も超えてしまった場合は?
相続内容によっては、配偶者が1億6,000万円以上でかつ法定相続分を超えるケースもあります。
例えば、上記の設例を少し変更して配偶者B、長男C、次男D、長女Eが以下のように財産を相続したとしましょう。
・配偶者B:自宅2億円+土地3億円
・長男C:預貯金2,000万円
・次男D:生命保険6,000万円
・長女E:預貯金2,000万円
その他の条件に変更はありません。新たに設定した相続内容をもとに、相続税を計算してみましょう。
①課税価格を計算する
この場合、各相続人の課税価格は以下のようになります。
・配偶者B:5億円-2,000万円=4億8,000万円
・長男C:2,000万円
・次男D:6,000万円-2,000万円=4,000万円
・長女E:2,000万円-500万円=1,500万円
配偶者Bの法定相続分は2億5,050万円。課税価格の方が大きくなるため、相続税がかかります。法定相続分を控除額とした配偶者控除を用いて配偶者Bの納税額を計算する前に、軽減前の相続税を算出します。
各相続人の取得割合※は、以下のとおり。
・配偶者B:4億8,000万円÷5億5,500万円≒0.865
・長男C:2,000万円÷5億5,500万円≒0.036
・次男D:4,000万円÷5億5,500万円≒0.072
・長女E:1,500万円÷5億5,500万円≒0.027
※取得割合が1になるように、端数処理をしています。
取得割合を、相続税の総額にかけます。
・配偶者B:1億3,987.5万円×0.865=120,991,875円
・長男C:1億3,987.5万円×0.036=5,035,500円
・次男D:1億3,987.5万円×0.072=10,071,000円
・長女E:1億3,987.5万円×0.027=3,776,625円
控除制度を利用しなかった場合の配偶者の相続税額は、約1億2,000万円です。
②配偶者Bの相続税を計算する
・課税価格の合計額:5億5,500万円
・配偶者Bの課税価格:4億8,000万円
・配偶者Bの法定相続分:2億5,050万円
・配偶者Bの課税価格:4億8,000万円-2億5,050万円=2億2,950万円
・相続税総額:1億3,987.5万円
配偶者控除の金額は、以下の算式で求められます。
相続税総額×(配偶者の法定相続分÷課税価格の合計額)
この算式を、設例に当てはめてみましょう。
1億3,987.5万円×(2億5,050万円÷5億5,500万円)≒63,131,770円※
※端数切り捨て
配偶者控除による軽減前の税額から配偶者控除額を引いて、軽減後の相続税額を出します。
120,991,875円-63,131,770円=57,860,105円
③各相続人の納付税額を整理する
・配偶者B:57,860,105円
・長男C:5,035,500円
・次男D:10,071,000円
・長女E:3,776,625円
控除制度を利用した後の配偶者Bの相続税額は、約5,800万円。配偶者の控除額を超えたとしても、配偶者控除を利用することによって軽減前と軽減後では大きな違いがあります。
配偶者控除を使わないほうがいいケース
配偶者控除は、相続税を大幅に減らせる制度というイメージがあります。しかし、場合によっては結果的に税の負担が大きくなることもありますので、注意が必要です。配偶者控除を使わない方がいいケースとして、数次相続が挙げられます。
数次相続とは
数次相続とは、一つの相続が終わらないうちに新たな相続が始まった状態のことです。例えば、父が亡くなり相続の手続きをしているうちに、母も亡くなってしまったケースがそれに当てはまります。この場合、父が亡くなった時の相続を「一次相続」、母が亡くなったことによって生じた相続を「二次相続」とそれぞれ呼びます。亡くなった夫婦に子供がいる場合は、その子供が一次相続と二次相続の相続人となります。
なぜ二次相続で相続税が高くなってしまうのか
二次相続は相続税が高くなるといわれています。その理由の一つが、「二次相続では配偶者控除が適用されない」からです。さらに、法定相続人の数が一次相続よりも少なくなることによって基礎控除額も減ります。
例えば、父と母が相次いで亡くなり数次相続が発生した場合、相続人である子は両方の相続人となります。二次相続では母が相続した財産と母が所有していた財産の両方を相続しなければなりません。さらに、一次相続よりも相続人の数が減ります。
配偶者控除を利用した二次相続の例
一次相続で配偶者控除を利用した場合、二次相続では相続税がどのようにかかってくるのか見てみましょう。
◯設例
【一次相続】
・被相続人:父A
・相続人:母B、子C、子D
・相続財産:1億5,000万円
相続税を避けるために、母Bが父Aの財産を全て相続した。
【二次相続】
・被相続人:母B
・相続人:子C、子D
・相続財産:2億円(一次相続の財産1億5,000万円+母の財産5,000万円)
一次相続では母Bが全ての財産を相続したため、相続税はゼロ円です。二次相続では、母が所有していた財産と、父から引き継いだ財産の合計を子2人で相続することになります。2億円に対する相続税の合計は3,340万円。
仮に一次相続で法定相続分にそって遺産を分割した場合、一次相続における子の相続税は合計920万円です。二次相続では1億2,500万円の財産(母が一次相続した財産7,500万円+母の財産5,000万円)を6,250万円ずつ分けた結果、相続税の合計は1,260万円となりました。
このように、一次相続で母Bの相続分が減ることで、相続税にも差が出ることがわかります。
配偶者控除以外で利用できる節税方法は?
配偶者控除以外にも、節税が期待できる制度を以下にご紹介します。
配偶者居住権
配偶者居住権とは簡単に言うと、配偶者のみに付与される自宅に住める権利のこと。居住権を得ると、その配偶者は不動産の所有権を相続しなくても住み続けることが可能です。
配偶者居住権が節税になるのは、居住権と所有権は別々に評価されるため普通に不動産を相続するよりも税金が抑えられるからです。
例えば、被相続人が所有していた自宅の居住権を配偶者が持ち、所有権を被相続人の子が相続したとしましょう。数年後配偶者が亡くなり、それと同時に居住権も消滅します。消滅したものには相続税はかからないうえ、所有権は子がすでに相続しているため新たな税金は発生しません。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、条件を満たした宅地に対して最大80%の控除が適用される制度です。
・計算式:土地の評価額×80%
限度面積と減額される割合は、国税庁のホームページで確認できます。
・参照:『No.4124?相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)』
例えば、居住用の宅地180㎡(評価額4,000万円)を相続する場合の軽減額は3,200万円。つまり、小規模宅地等の特例を利用した場合の宅地評価額は、800万円まで下がるというわけです。
相続する宅地の評価額が下がるということは、課税遺産総額が減り相続税も少なくなることを意味しています。場合によっては課税遺産総額が基礎控除額を下回り、相続税が無税になるケースもあるでしょう。
贈与税の配偶者控除
贈与税の配偶者控除とは、不動産の購入目的で配偶者に贈与した資金に対して、2,000万円まで(基礎控除額を含めると2,110万円まで)控除される制度のことです。
以下の要件を満たすことで、贈与税の配偶者控除を受けられます。
・婚姻期間が20年以上続いている
・自宅用の不動産を購入するための贈与である
・過去に同特例を受けていない(違う配偶者の時に受けたものは除く)
・贈与があった3月15日までに入居し、引き続き居住する予定である
例えば、結婚して25年目を迎える夫婦が、夫名義の住宅を共有するとしましょう。妻に共有持分1/2を贈与した場合にかかる贈与税は、以下のように算出されます。なお、妻の共有持分の課税価格は2,700万円です。
・控除後の課税価格の計算:2,700万円-2,000万円-110万円=590万円
・贈与税の計算※:590万円×30%-65万円=112万円
※・参照:『贈与税の速算表』
贈与税の配偶者控除は、生前贈与加算の対象外です。贈与者が亡くなる前7年以内に贈与があったとしても、相続財産には加算されません。
配偶者控除を利用すべきかどうかはケース・バイ・ケース
配偶者控除が相続税対策につながるのは、ケース・バイ・ケースです。例えば、二次相続のことを考慮すると配偶者控除の使い過ぎは避けた方がいいといわれていますが、一次相続で相続税を支払うための現金を用意することが難しい場合は、配偶者控除の利用を検討する余地があるでしょう。ここでは、配偶者控除の利用を検討する際のポイントをご紹介します。
二次相続を考慮する必要の有無
相続税の配偶者控除のデメリットとして挙げられるのが、二次相続の問題です。逆に考えると、二次相続を考慮する必要がなければ配偶者控除を活用した方がいいということではないでしょうか。例えば、現在健康で年齢的にも先があるという場合は、二次相続よりも身近なメリット(二次相続が起こるまでの財産の使い方など)に目を向けてみます。そのうえで、配偶者控除が有利になると考えられるのであれば、利用を検討してみましょう。
家族仲の良し悪し
家族仲は、相続がうまく行くかどうかに大きな影響を与えます。二次相続を考慮して一次相続の分配を決めたとしても、相続人たちの仲が悪ければ思ったように円満な相続とはならないでしょう。それならば、先のことを気にするよりも他に優先することがあるかもしれません。例えば、被相続人が亡くなった後の生活です。残りの人生をどのように過ごしたいのかを考えた時に、異なった選択が出てくるかもしれません。
配偶者が高齢であるかどうか
配偶者の年齢は、配偶者控除を利用すべきかどうかを決める有益な判断材料の一つです。配偶者が50代であれば、年齢的に見て生命保険の非課税枠や生前贈与などの節税対策に取り組む時間があります。
配偶者が高齢で二次相続が起こる可能性が高い場合は、二次相続を含めた遺産分割を考える必要があるでしょう。一次相続と二次相続における分配は、シミュレーションをするのが一番ですが、税理士などの専門家による具体的なシミュレーションをもとに検討するのが賢明です。
納税資金の確保を優先すべきかどうか
納税資金の確保は、相続の中でも優先度の高い課題です。相続税は基本的に現金で納めるため、期限までにまとまったお金を用意する必要があります。次の代が引き継ぐ相続税よりも納税資金不足が問題になる場合は、相続税額を減らすために配偶者控除を利用するのが得策でしょう。
相続後の生活保障の有無
被相続人の配偶者の中には、遺産を使わずに十分に生活できる人もいれば、相続後の収入を遺産に頼る人もいます。後者の場合は、「次の代の税金を減らす」ことよりも、「相続後に必要なお金」について考える必要があるでしょう。月々に必要な生活費や今後起こりうるイベント(介護施設に入居するなど)を考慮し、相続後の生活保障として必要なお金を計算します。そのうえで配偶者控除を利用するのがベストかどうかを検討します。この場合も役に立つのが、個人の事情にそったシミュレーションです。税理士などの専門家に依頼してシミュレーションをしてもらうと同時に、生活保障のやり方などについてアドバイスを受けましょう。
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