相続登記の義務化とは?司法書士がわかりやすく簡単に解説!
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登記申請は、オンラインでもできるようになりました。遠方に住んでいても、オンラインを使えば郵送で書類を取り寄せられるでしょう。けれども郵送での申請は時間がかかりやすく、作業が長引いてしまいます。例えば窓口だったらミスを指摘されてすぐに対応できますが、郵送ではそれができないため、ミスを指摘されてから修正するまでに時間がかかるでしょう。遠方の場合は、郵送申請一択になりがちです。できるだけ早く手続きを終わらせたい場合は、専門家に依頼するのが賢明でしょう。
相続登記の義務化とは?司法書士がわかりやすく簡単に解説!
相続登記義務化とは。わかりやすく簡単に解説致します!
相続登記とは、土地や不動産などを引き継いだ時に、所有者の名義を変更する制度のことです。相続登記が義務化されると聞いて、「どのように手続きをすればいいのか」「登記が遅れてしまったらどうなるのか」「手続きは簡単なのだろうか」などと、戸惑う人も多いのではないでしょうか。
相続登記の義務化で知るべきことは、
・どのようなルールになったのか
・罰則は何か
・手続きするうえで救済措置はあるのか
の3点です。
これらのポイントについて理解を深めることによって無駄に焦ることはなくなりますし、手続きもスムーズに進めることができるでしょう。本記事では相続登記の義務化とは何かから、救済措置の種類、さらに手続きの方法についてわかりやすく解説します。
相続登記義務化の概要をわかりやすく解説!
相続登記をすると、その不動産の名義が故人から相続人に変更されて登記簿上に記録されます。相続登記の義務化は、この手続きを相続人の義務としたものです。相続登記の主なルールについて、見てみましょう。
義務化はいつから?期限は?
相続登記の義務化は、2024年4月1日よりスタートします。対象となるのは、
①義務化が始まった後に相続した不動産
②義務化が始まる前に相続した未登記の不動産
を所有する人です。
登記には、以下のように期限が決められています。
①の場合:相続したことを知った日から3年以内
②の場合:①または義務化が始まった日のどちらか遅い日から3年以内
罰則は誰に?その内容は?
従来のルールでは、相続登記は任意でした。けれども、義務化後は義務を怠った相続人に対して罰則が生じます。もし、期限を過ぎても登記を済ませなかった場合は、不動産を引き継いだ相続人に対して10万円の過料が発生します。
過料は刑罰の罰金とは異なるため、支払わなくても労役場留置(罰金額に達するまで刑務所にて作業すること)処分になることはありませんが、場合によっては不動産を差し押さえられる可能性がありますので注意が必要です。
どうして相続登記が義務化された?
義務化に至った背景には、土地の所有者不明の問題があります。やや古い資料になりますが、国土交通省が2016年に全国の土地を対象に実施した調査によりますと、未登記による所有者不明の土地は、全体のおよそ2割に達したということです。
・参照:『所有者不明土地問題を取り巻く 国民の意識と対応』
不動産の所有者に関する情報が記録されている登記簿は、法務局で保管されていて、それを照会することによって所有者の把握が可能になります。ところが、未登録の場合は所有者を確認することができません。不動産の持ち主が不明の場合は、連絡を取ることができず「公共事業を進められない」「不法投棄されたゴミの処理ができない」「荒れた土地を放置せざるを得ない」など、社会的な問題が発生します。こうした問題は全国に広がっており、解決策として打ち出されたのが、相続登記の義務化なのです。
住所、氏名変更の登記も義務化される
今回の制度の改正では、不動産の持ち主の住所や氏名の登記も義務化されました(スタートは2026年4月1日)。これは、登記した持ち主の情報に変更があった場合は、変更手続きを行うことを義務とする制度です。住所や氏名の変更に伴う登記の変更には、変更した日から2年以内に手続きを済ませる必要があります。正当な理由がなく期日を過ぎても変更しなかった場合は、5万円以下の過料が科せられます。
相続登記義務化に伴う救済措置とは
何らかの理由で期限内に相続登記が難しいケースに対応するために、新制度において新たな救済措置が設置されました。それは、以下の3種類です。
・相続人申告登記
・所有不動産登録証明制度
・相続登記にかかる登録免許税の軽減
各救済措置について、見てみましょう。
相続人申告登記
相続人申告登記とは簡単に言うと、法務局に対して相続人であることを伝える救済措置のことです。例えば、法定相続人の確認に時間がかかり、遺産分割協議を始めることができないなど期限内での相続登記が難しい場合に活用できます。
相続人申告登記をすることによって、期限を過ぎてもペナルティが発生することはありません。ただし、相続人申告登記はあくまでも簡易的なもので、相続登記とは異なります。相続人申告登記をしても、不動産の売買などはできない点には注意しましょう。
所有不動産登録証明制度
所有不動産登録証明制度とはわかりやすく言うと、被相続人が所有していた不動産の一覧情報に関する証明書のことです。相続によって土地や建物を所有した相続人の中には、被相続人が所有していた不動産を把握しきれない人もいます。また、これまで用いられていた「名寄帳(固定資産税課税明細書)」では、非課税地の記入漏れがあるなど不便な点もあります。これらの課題を解決するために新たに設置されたのが、所有不動産登録証明制度です。
所有不動産登録証明制度は、相続登記の期限延長に対する措置ではありません。けれども、被相続人が所有していた土地の把握をスムーズにすることで手続きの負担を軽減し、期限内での完結を目指すのに役立つでしょう。
相続登記にかかる登録免許税の軽減
不動産を登記する際に、登録免許税がかかります。「相続登記の登録免許税の免税措置」とは、登記する不動産の価格が100万円以下であれば、登録免許税は非課税となる制度のことです。適用期限は、2025年3月31日まで。相続登記の登録免許税の免税措置も、相続登記の延長に影響するものではありませんが、税負担を軽減することによって、コスト面で相続登記をするハードルが下がり期限内に手続きをしやすくなります。
相続登記のやり方
相続登記の手続きは、以下のステップを踏みます。
①戸籍資料、評価証明書等必要書類の取得
②現時点の相続人全員による遺産分割協議書の確認
③登記申請書の作成
④申請書と必要書類を管轄法務局へ提出して登録免許税を納付
戸籍資料、評価証明書等必要書類の取得
登記申請書を除く相続登記で必ずと言ってよいほど必要な書類は、以下の戸籍資料と評価証明書等です。
書類名
入手先
登録事項証明書
管轄法務局の窓口またはオンライン
固定資産税評価証明書
不動産のある地域を管轄している市町村役場
故人が誕生してから死亡するまでに作成された戸籍謄本(除籍謄本・改製原戸籍を含む)
故人の本籍地または旧本籍地を管轄している市町村役場
故人の住民票除票
故人の最後の居住地を管轄している市町村役場
相続人の戸籍謄本
本籍地にある市町村役場
相続人の住民票
相続人の居住地にある市町村役場
この他に、遺産を分割した方法によって必要となる書類もあります。
・遺言書による相続:遺言書
・遺産分割による相続:遺産分割協議書、相続人の印鑑証明書
現時点の相続人全員による遺産分割協議書の確認
遺産分割協議書に有効期限はありません。けれども、2021年4月に民法が改正されると、「遺産分割協議書の有効期限は10年」ということが、ささやかれるようになりました。これは、民法改正によって10年を経過した特別受益(被相続人から生前に財産を贈与され利益を得ること)と寄与分(被相続人を無給で介護したなど特別な寄与をした人が一定額の財産を受けられる制度)の主張は無効となったことから来ているようです。相続登記に遺産分割協議書が必要になる場合は、現時点の相続人全員で作成された遺産分割協議書であるかどうかを確認しましょう。
登記申請書の作成
相続登記申請書の様式は、特に指定されていません。そのため自分で用紙を用意し、作成する必要があります。ただし、以下の情報を盛り込んだものが有効です。
・登記の目的(「所有権移転」など)
・被相続人が亡くなった日
・登記する理由(「相続」)
・添付情報(登記申請書の他に添付する書類)
・相続人の氏名と住所
法務局では、登記申請書の記載例を公開しています。詳しくはそちらを参考にしながら正確に情報を盛り込んでいきましょう。
・参照:『不動産登記の申請書様式について』(法務局)
申請書と必要書類を管轄法務局へ提出して登録免許税を納付
必要書類を準備したら、登記する不動産の地域を管轄している法務局の窓口で申請手続きをしましょう。登録免許税を納付する必要がある場合は、必要書類の提出と同時に納付します。なお、登録免許税は、以下の算式を用いて自分で計算する必要があります。
登録免許税:固定資産税評価額×0.4
昔の遺産分割協議書や印鑑証明書、戸籍資料でも可能。
①古い遺産分割協議書
遺産分割協議書が古くても、以下の条件さえそろっていれば受理される可能性は高いと言えます。
・相続人全員で遺産分割協議をし、その内容にそって作成されている
・相続人全員の実印が押印されている
・相続人全員の印鑑証明書がある
②古い印鑑証明書
印鑑証明書自体に有効期限はありません。よほど古いものでない限り、手続きには問題なく使えるでしょう。
ただし、
・印鑑証明について「確かに遺産分割協議に納得したうえで押印した」と、押印した人に確認がとれていること
・申請する日より3か月以内に取得したものであること
が前提です。
③古い戸籍
被相続人が亡くなった後に取得したものでかつ相続登記のみに使用するのであれば、古い戸籍(改製原戸籍など)でも問題はありません。
相続した土地の国庫帰属制度
未登記の土地の中には、地方の山林や原野など、購入時は価値があったものの、現在では売却もできない状態のものが数多くあります。こうした土地の処分方法として、相続土地国庫帰属制度が挙げられます。
相続土地国庫帰属制度とは
相続土地国庫帰属制度とは、2023年4月27日より始まった国に土地を帰属する制度です。管理が行き届いていない土地や所有者不明の土地を減らすことを目的とし、一定の条件を満たした土地を国が引き取ります。
制度の利用条件
相続土地国庫帰属制度を利用できるのは、相続(または遺贈)によって土地を取得した人です。また、土地に関する条件ですが、「申請できない土地」または「申請しても不承認になる土地」に該当しない土地であることとされています。
◯申請できない土地
・建物が建っている土地
・道路や通路がかぶっている土地
・汚染されている土地
・担保権が設定されている土地
・所有権をめぐる争いが起きている土地
など。
◯申請しても承認されない土地
・崖に面しているなど管理が大変な土地
・公道までの道がない土地
・残置物(放置車両など)がある土地
・遺跡などの有体物が残されている土地
など。
必要となる費用
相続土地国庫帰属制度手続きには、
・審査手数料:一律14,000円
・10年分の土地管理費用に相当する負担金:原則20万円(土地の広さや用途によって変動あり)
が必要です。
必要書類
・承認申請書
・該当する土地の位置と範囲がわかる図面
・該当する土地と隣接する土地の境界線がわかる写真
・該当する土地の形状がわかる写真
・申請者の印鑑証明書
お手続きの大まかな流れ
相続土地国庫帰属制度における手続きの主な流れは以下のとおりです。
①所有する土地を管轄している法務局または、最寄りの法務局にて事前相談の予約をする
②手続きに必要な書類を作成し提出する(作成方法についてはこちら)
③法務局担当官による要件審査を受ける
④帰属の承認または不承認の通知を受ける
⑤承認された場合は、通知を受け取ってから30日以内に負担金を振り込む
まとめ
相続登記の義務化の基本的なルールから放置してしまいがちな土地の対処方法まで、わかりやすく解説しました。
新しい制度には、手続きの期限と義務化を怠ったことに対する罰則があります。特に考慮する点がないというのであれば、期限内に手続きを済ませるようにしましょう。
相続登記という点だけ切り取ると、手続きをしてしまえば終わりと簡単に考えられます。けれども、どうしてよいかわからずに、持て余している土地であったり、遺産分割をめぐって遺産分割協議が思うように進まなかったりするなど、難航するケースもあるでしょう。相続登記の手続きや不要土地の国庫帰属に関する悩みなどは、専門家に相談して早期解決を目指すのが無難です。