家族信託は必要ない?その考え方と具体例

家族信託は必要ない?その考え方と具体例

家族信託とは

最近、新聞やテレビでの特集、インターネット、週刊誌等様々なメディアにおいて、「認知症になると預金を引き出せない等、資産が凍結する。だから家族信託をしておきましょう。」といった内容がよく見られるようになりました。
認知症という症状そのものについては普遍的な問題ですが、保有財産や家族構成、その他個別の事情は各家庭によって事情が異なります。そのため、「認知症=家族信託が必要」という考え方は論理が飛躍されています。では、家族信託という仕組みはどういったケースにおいて必要となり、どういったケースにおいて必要がないのか、こちらの記事ではこのテーマについてご案内をしていきたいと思います。
まずは、本題に入る前に、「家族信託とは何か」について、簡単に確認していきましょう。
「家族信託」とは、自分の財産を信頼できる家族等に託し、管理・運用・処分を任せることができる制度です。認知症や事故・病気等に伴い、判断能力が減退ないし喪失状態となると、預金引出や建替え、大規模修繕、借入、賃貸経営、不動産売却、土地権利関係整理、証券取引等の法律行為を行えなくなる(相手方が応じてくれなくなる)可能性があり、このような問題を資産凍結と呼びますが、主に、この資産凍結問題を回避する目的で利用できる効果的な方法と言えます。
簡単に言えば、「家族信託」とは何らかの原因で判断能力が低下した方の資産が凍結され、日々の生活が難しくなってしまうことを避けることができる便利な方法と言えるでしょう。
さて、本題です。がその前に、お断りがございます。家族信託の利用が必要な場合と、そもそも家族信託を利用できない場合については明言ができるのですが、必要ない場合というのは明言ができません。必要ないという意味には、何もしないケースが含まれてしまうためです。認知症や事故、病気等に伴う判断能力の減退ないし喪失のリスクについてはどの家庭でも起こりうる普遍的な問題である以上、必要ないと明言することはできないということです。そのため、こちらの記事では、必要ないと明言するのではなく、「必要とまでは言えない」として、ご説明をさせて頂きます。
それでは、家族信託が必要なケース、利用できないケース、必要とまでは言えないケースに分けて、それぞれご説明ご案内致します。
なお、冒頭で、家族信託利用の基礎的なロジック図を載せておきますので、こちらもご参考下さい。

家族信託が必要なケース

まず初めに、家族信託が必要なケース、つまりは、家族信託を利用しなければ目的の達成が困難なケースについてご案内致します。

積極的な財産の活用や相続税対策をされたい場合

不動産の買い替えや、建替え新築、築古アパートのリノベーション、不動産から金融資産への運用転換、不動産交換、不動産から金融資産運用転換、金融商品運用継続等、財産活用といっても様々ですが、いずれにおいても、判断能力が著しく低下している状態ですと、取引が困難となり、実行できないリスクがございます。また、相続税対策は、こうした財産活用による結果として生じさせる手法が多く、これも実現できないリスクが生じてしまいます。
こうした行為は、家族信託同様に資産凍結の対応手法として挙げられる後見制度では、その趣旨に該当せず、制度上も実務上も困難です。そのため、積極的な財産の活用や相続税対策を親の代で行いたい場合には、家族信託の利用が必要と言えます。

受益者連続型信託の仕組みを活用されたい場合

例えば、父親Xが先祖代々受け継いできた土地について長男Aに継がせたいと考えています。ただ、長男Aには妻Cがいるものの、子供がいないため、長男Aが死亡した場合は、次男Bの子である孫Yに承継させたいと考えています。
しかし、遺言では長男Aに継がせることまでは出来たとしても、Aの死後は孫Yに相続させるとすることはできません。
孫Yに承継させるためには、長男Aが遺言で、受け継いだ土地については、Yに相続させる旨の遺言を作成する必要があります。
しかし、長男Aが遺言を作成しなかった場合、長男Aの妻Cへ相続される可能性があります。さらに妻Cが死亡すると、妻の両親や兄弟姉妹、甥や姪が法定相続人となります。そのため、先祖代々受け継いできた土地が妻の親族へと引き継がれてしまう可能性があるのです。
このようなに、不動産権利の分散を防ぎ、代々承継させていきたいような場合には、家族信託の利用が必要であると言えます。

判断能力が低下していなくても、不動産を含めた財産管理を任せたい場合

後見制度の場合、任意後見も法定後見も、判断能力が低下、つまりは、脳機能に問題が生じていなければ、利用(任意後見の場合は効力発生)が出来ません。そのため、身体や気力が衰えてしまっているといっただけでは、利用出来ないのです。この点、家族信託であれば、契約締結の時点から、財産名義を子供等に移せるため、管理を任せることが可能です。
なお、財産名義が移ると言っても、実質的な権利者(その財産による利益を享受出来る人)は変わらず、税務上の取扱いも同様であることから、財産名義変更に伴う贈与税や譲渡所得税,不動産取得税といった、いわゆる流通税は生じません。(但し、信託契約当時委託者と受益者が同一人である、「自益信託」の場合です)これは、パススルー課税と呼称されている家族信託の機能の一つです。
まだ判断能力はあるけれども、銀行に行ったり不動産の管理をしたりは体力的に疲れてしまうといった段階から、不動産を含めた財産の管理を、対外的にもしっかりした形で、信頼できる家族に任せてしまいたい場合には、家族信託が必要と言えます。
なお、「不動産を含めた」との文言を入れているのは、不動産がない場合には、そもそも家族信託が必要とまでは言えないためです。これにつきましては、後述の「家族信託が必要とまでは言えない場合」をご参照ください。

融資の必要性が想定される場合

相続税対策のことを踏まえ、不動産の大規模修繕やリフォーム工事、建替え等を、本人又は配偶者(配偶者が本人財産を相続するとした場合)の代において行うことを考えていて、実行に当たって融資の必要性が想定される場合には、家族信託が必要です。
任意後見、法定後見の場合、積極的財産活用が出来ないことから、建替えや投資性リフォーム工事を行うことは不可と考えられ、事業性融資はもってのほかです。大規模修繕については、保存行為である以上、可能と考えられはしますが、融資が必要である場合には、困難と考えられます。これは、ご高齢の方の場合、売却してしまった方が、本人の生涯生活の安定という方針からは選択しやすく、融資を受けてまで大規模修繕をするには、その客観的必要性が求められると考えられるためです。
以上より、融資が想定されるケースにおいては、家族信託が必要となります。

家族信託の利用が出来ないケース

財産管理を託せる人がいない場合、家族信託は使えない

家族信託が必要か必要ないかといった議論の前段階として、そもそも利用が出来ないケースも存在します。
家族信託では、最低限、管理を任せる本人(委託者と言います)と任せられる人(受託者と言います)の二人が必要です。つまり、本人から見て、家族信託を利用するには、受託者を用意する必要があり、これができないと家族信託を利用することは出来ないということです。
なお、家族信託の受託者は、甥や姪、知人でもよいのですが、司法書士等専門家は信託業法上、不可と考えられます。

家族信託が必要とまでは言えないケース

家族信託が「必要なケース」、「利用出来ないケース」のいずれにも該当しないケースが、こちらの必要とまでは言えないケースに該当します。
必要とまでは言えないというのは、二つの意味があります。一つは、「費用対効果の問題から必要とまでは言えない。」もう一つは、「家族信託以外の方法による対応も可能なため、必要とまでは言えない。」の意味です。それぞれ見ていきましょう。

費用対効果の問題から必要とまでは言えないケース

小見出し1 所有不動産がないケース。
不動産所有がなく、かつ、将来的にも本人名義で不動産購入する予定がない場合は、家族信託を利用する理由は乏しくなります。預金凍結を予防する意味での必要性はありますが、そのための方法としては、代理人届がございます。代理人届は金融機関によりその内容と名称ともに異なりますが、予め指定したご家族が、本人の代わりに預金処理出来る仕組みで、無料で利用可能です。他にも、家族信託ではなく、預金の管理や各種支払い等を委任する、財産管理契約という方法もございます。(財産管理契約は金融機関が認めていないのですが、管理対象財産を金銭信託相続先生万円などとし、受任者口座に預かり金として預けてしまえば、受任者が処理可能です。)財産管理契約の方が、家族信託よりもシンプルで、専門家報酬も低く済むでしょう。

小見出し2 自宅があるが、その売却も大規模修繕や建替え等の予定もないケース
自宅不動産の所有があっても、本人又はその配偶者(配偶者が不動産を承継するとした場合)の代において、売却やリフォーム、建替えといった行為の想定が全くない場合には、家族信託利用の理由は乏しくなります。
預金凍結の備えは必要性があると言えますが、先のケースでご説明した通り、代理人届等がございます。保有不動産に係る大きな取引予定がない以上は、敢えてそのための備えをしておく必要はないでしょう。但し、本人及び配偶者の平均余命が10年以上ある等、相続発生までに長期間掛かるような場合や、大きな地震による損壊リスクを加味されるのであれば、念のため備えておくのも宜しいかと思います。
また、所有不動産に賃貸アパート等がある場合には、賃貸経営という継続的法律行為を伴う業務が必要であるため、不動産に係る処分行為想定の有無に関わらず、家族信託を利用する理由がございます。
自宅売却等の必要性が本人及び配偶者の代において必要ないかの判断は、平均余命+αの期間までの、不動産を生活原資とする必要性が生じるか否かの検討が重要です。介護施設生活をせざるを得ない状況となることも踏まえ、最悪のシナリオにおいても、金融資産が足りるかについて検討してみましょう。

さて、二つのケースを挙げましたが、要は、預金凍結については、家族信託よりも簡易でコストの掛からない方法がある以上、「賃貸不動産がある場合」、「自宅不動産のみだが、本人及び配偶者(配偶者が不動産を承継するとした場合)の代において、不動産の売却や建替え・リフォーム等の可能性がある場合」が、家族信託利用の意味があるケースで、それ以外の場合は、コストを掛けてまで利用することに疑義があるということです。

家族信託以外の方法による対応も可能なため、必要とまでは言えないケース

「賃貸不動産がある場合」、「自宅不動産のみだが、本人及び配偶者(配偶者が不動産を承継するとした場合)の代において、不動産の売却や建替え・リフォーム等の可能性がある場合」のいずれかに該当する場合には、資産凍結対策を行っておく理由があります。それは、賃貸物件の入退去、修繕、リフォーム、管理会社との契約、建物明渡しや滞納家賃回収といった賃貸トラブル時の訴訟対応及び弁護士や司法書士依頼等、賃貸経営には継続的な判断能力が必要で、自宅不動産の売却や建替え、大規模修繕、賃貸化リフォームにも、その時点における判断能力が必要となるため、認知症等判断能力の減退ないし喪失が生じてしまうと、これらを行えなくなる可能性があるからです。
ただ、備えの方法としては、家族信託以外にも、任意後見や生前贈与もございます。コストや特徴などを比較した上で、家族信託が最も適しているとお考えになられるようであれば、家族信託をご利用されれば良いのであり、家族信託が必要か否かではなく、選択の問題となるため、必要とまでは言えないこととなります。

家族信託のご相談は信託相続先生へ

如何でしたでしょうか。家族信託は、唯一無二の機能があるため、家族信託が明確に必要となるケースはあるのですが、必要ない場合というのは言い切れないところがあり、複数ある問題解決方法の一つとして、お客様に選択をしていただくこととなります。
私たちは、お客様の課題解決にあたり、どのようにするのが最も適切と言えるのか、家族信託ありきではなく、他の手段も含めて検討した上でのサービス提供をさせていただいております。
最後に、私達信託相続先生の提供させていただいている家族信託サービスについてご案内させていただきますので、ご参考いただき、宜しければ、お気軽に無料相談をご利用ください。

信託相続先生とは

一般家庭世帯においては、富裕層に行われているような、弁護士や税理士、銀行等による財産に係る専門的な助言を受ける機会が少なく、問題が生じてから対応されるケースが多いのが現状です。
一般家庭世帯にこそ、良質な法務・税務を中心とした、財産の管理・活用・承継に係る総合サービスを届けたい。私達信託相続先生は、こうした想いを共有する専門家によって構築された、複数の専門事業者による共同プロジェクトブランドです。

特徴1~総合的なプランニング~

法務視点に偏らずに、税務・会計、財産の維持・活用、ライフプランといった多角的な観点からお客様の抱える課題を抽出し、総合的なプランニングを構成した上での家族信託サービスが可能です。
単にお客様に言われるがままに家族信託を組成するのではなく、お悩みの課題と、お客様が気づかれていない潜在的課題を抽出した上で、その対策案として、家族信託が適しているか、その他に必要な施策はないかといった点から検討が可能なため、家族信託におけるデメリットや危険性を回避した、後悔しない家族信託のご利用をいただけます。また、そもそも家族信託が適さない場合や、他の方法の方がよりコストが安く済む等、お客様目線でご提案をさせて頂いております。

特徴2~安心の事後支援~

家族信託は作って終わりではなく、作ってからがスタートとなります。遺言や贈与等であれば、実行して終わりとなりますが、家族信託は、実行によって財産管理が始まることとなるためです。
家族信託を開始すると、受託者は、他人の財産を管理する者として、信託契約及び信託法に基づき適切な管理をしていかなければなりません。会計処理や税務署届出、判例構築や税務通達、登記実務先例、銀行対応の変化等、外部要因に伴う契約書修正等、具体的にどうしていけば分からないのが通常です。
また、家族信託により、信託された財産は受託者の名義となりますので、恣意的な財産管理が行われていないかの確認も重要で、財産管理の状況をクリアにしておくことで、相続人間の不信感を防ぎ、受託者自身の身の潔白を証することができます。
信託相続先生なら、適切な信託の運営をサポートする事後支援サービスにより、家族信託を安心してご利用していただけます。

特徴3~司法書士による直接対応~

信託相続先生の家族信託は、無料相談の段階から司法書士が直接対応致しますので、信託契約後の登記手続きに至るまで、自己完結が可能です。
不動産が含まれる家族信託では、
弁護士に依頼された場合には、弁護士報酬+司法書士報酬
金融機関や不動産・保険関連の企業やその出資先企業の場合には、その企業の報酬+弁護士報酬※+司法書士報酬となるところ、司法書士に直接依頼していれば、司法書士報酬のみで済みます。
※信託契約書草案作成業務を弁護士が行っている企業の場合

特徴4~丁寧な説明~

信託相続先生の家族信託では、お客様のお悩みの解決手段として、なぜ家族信託が適切なのか、家族信託を利用した場合におけるリスクとしてどのようなことが考えられるかといった、家族信託をお勧めする合理的理由の説明と、考えられるリスクを丁寧にご説明致します。良いことだけでなく、危険性やデメリットまでしっかりとご説明致しますので、思わぬトラブルが生じるようなことを避け、安心してご利用いただけます。

司法書士 飯田 真司

<strong>飯田 真司</strong>

信託相続先生の司法書士飯田真司と申します。大学在学中はお笑い芸人を目指していたものの、挫折し、司法書士の道へと方向転換致しました。司法書士として頑張りつつも、たまに漫才イベントを企画しています。

専門分野・得意分野
家族信託、相続関連
資格
  • 司法書士(法人登録番号:11-00552、登録番号:6918)
  • 簡裁代理(認定番号:1401068)
所属団体名
東京司法書士会
所属事務所
司法書士法人クラフトライフ
所属事務所の所在地
東京都世田谷区用賀4丁目28番21号

活動実績・専門分野

財産の管理・承継に関するリスクマネジメントとその手続きを専門分野とする。司法書士の専門である法務だけでなく、税務、財産活用等多角的な視点による提案力が強み。大手保険代理店、医療法人、社会福祉協議会等、セミナーや勉強会実績多数。

  • 相続登記
  • 家族信託
  • 相続税
  • 不動産活用

初めての相続・家族信託 無料相談

私たちは、司法書士と税理士を中心とする、相続や家族信託のプロフェッショナルです。「何をすればいいか分からない」といった段階からご相談頂けますので、お気軽にご相談下さい。

  • 相続登記
  • 家族信託
  • 相続税
  • 不動産活用

初めての相続・家族信託 無料相談

私たちは、司法書士と税理士を中心とする、相続や家族信託のプロフェッショナルです。「何をすればいいか分からない」といった段階からご相談頂けますので、お気軽にご相談下さい。